自動車保険(共済)には、2つの種類があります。自動車損害賠償責任保険(共済)と任意自動車保険(共済)です。1. 自賠責保険(共済) (1) 意義 自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)は、人を死亡させたり、怪我をさせたりしてしまったことに伴って発生する損害(「人的損害」といいます。)について最低限度の補償をしてくれる保険です。原動機付自転車を含む全ての自動車に加入が義務づけられているため、強制保険とも呼ばれます。被害者の救済を目的とした社会保障的な性格を有する保険であるため、保険料に利潤は含まれておらず、保険会社に利益は発生しません。(2) 自賠責保険料の引下げ 金融庁は、この自賠責保険の保険料を、2020年4月から3年ぶりに全車種平均で16.4%引き下げ、更に2021年4月にも平均で6.7%引き下げました。引き下げの背景には、交通事故件数の減少があります。警察庁発表の統計によれば、交通事故は、全国で、ピーク時の2004年に95万2720件発生していましたが、2015年には53万6899件、2020年には30万9000件に減少しています。交通事故の負傷者数も、2004年に118万3617人だったのが、2015年には66万6023人、2020年には36万8601人に減少しています。死者数も、ピーク時の1970年(沖縄復帰前)に1万6765人だったのが、2004年には7436人、2015年には4117人、2020年には2839人に減少しています。交通事故の負傷者数や死者数が減少すれば、人的損害の発生も減り、自賠責保険金の支払額も減るため、自賠責保険の保険料も引き下げになるということです。2. 任意自動車保険(共済) (1) 意義 もう一つの保険である任意自動車保険は、自賠責保険の支払限度額を超えて人的損害が発生してしまった場合の人的損害に対する賠償金や、車などの物を壊してしまったことに伴って発生する損害(「物的損害」といいます。)に対する賠償金を支払ってくれるものです。(2) 任意自動車保険料の値上げ 大手損害保険各社は、2020年1月頃に、任意自動車保険の保険料を値上げしました。①2019年10月からの消費増税の影響で保険金の支払い額が増えること、②2020年4月施行の民法改正で法定利率が5%から3%に変更されたことに伴い、人的損害のうちの逸失利益(後遺症や死亡したせいで働けなくなった将来分の収入に対する補償)等に対する保険金の支払い額が増えることが理由とされていました。いずれも理屈は分かるのですが、交通事故の発生件数の減少による保険金支払額の減少分を考慮してもなお任意自動車保険の保険料の値上げが必要なのかという点で、疑問を抱いていました。実際に、その後、大手損害保険各社は値下げをしており、今後も値下げ傾向は続くように思います。(3) 対人・対物賠償責任保険の保険金額 自動車保険の保険料は高いと感じることもあるでしょうが、皆さんは、必ず、任意自動車保険に加入し、対人賠償・対物賠償責任保険の保険金額を無制限に設定するようにしてください。私が被害者側代理人として取り扱った沖縄県内の交通事故でも、実際に損害賠償金として支払われた金額が6000万円になった事例があります。自らが交通事故の加害者となってしまい、このような高額の損害賠償金を支払うときに備えて、対人・対物無制限の任意自動車保険に加入しておかなければならないのです。2022年1月16日