1. 債権回収とは 「債権回収」とは、「会社が売った商品の代金を取引先が支払ってくれない。ちゃんと支払って欲しい。」、「個人事業主として請け負った工事を完成させたので、約束通り報酬を支払ってもらいたい。」、「個人間で貸したお金を返済して欲しい。」といったように、相手方が約束通りに売買代金、請負代金、貸金などを支払ってくれない場合に、法的手段などを通じてお金を支払ってもらうことを言います。2. 債権回収対策の必要性 相手方が約束通りに代金等を支払ってくれない場合に、一般の方が、未払いの問題を真剣に考え始める時期は、支払期限から一定の日数が経過した後になることが多いようです。しかも、その時点ですぐに対応を始める方も多くないように感じます。弁護士のところにご相談にいらっしゃる時点で、支払期限から数か月以上、場合によっては数年も経過しているということは、よくあります。しかし、未払いを問題視し始める時期も、対応を始める時期も遅すぎるように感じます。また、最初からきちんと対策を講じていれば、そもそも問題になってさえいなかったと思える事案も一定数あるように思います。以下では、主に、相手方にサービスを提供したり、業務を行ったりする場合(委託、請負)を念頭に置いて、債権回収の問題を発生させないようにしたり、問題が発生してしまった後の対応をしやすくするための対策を具体的に説明していきます。商品の販売(売買)やお金の貸し借り(貸金)などでも基本は同じです。3. 具体的対策 (1) 契約時点 サービスの提供や業務を行う時に、即金で代金を支払ってもらう場合を除けば、①契約の時点、②サービスの提供や業務を行う時点、③代金支払いの時点が異なってきます。そこで、まず、契約の時点において、契約の内容(契約日、サービス・業務・商品内容の詳細、代金、支払日など)をきちんと書類等に残し、後々、契約の内容について争いが生じないようにしておく必要があります。書類は、契約書でも良いですし、注文書と注文請書などをやり取りしても良いです。電子メールやLINEなども便利ですが、最終的な合意内容が何かが明確になっていなければならないので、注意が必要です。その上で、契約金額が大きかったり、相手方の支払能力に問題がありそうな場合には、回収の可能性を高くするため、保証金を差し入れてもらったり、連帯保証人を求めたり、不動産に抵当権を設定させてもらったりすることも検討すべきです。このような対策をとることができなかったり、対策をしても不安が残りそうということであれば、現金取引や先払いに限るか、そもそも契約を見合わせるべきと言えるでしょう。なお、保証契約については、民法改正に伴って個人保証人の保護が拡充され、一定の場合に公証人による意思確認が必要になる等していますので、注意が必要です。(2) 契約変更時点 契約時に、契約書等により契約内容を明確にしていたとしても、契約内容を変更する時に、変更内容を明確にできていることは多くありません。かなり大きな金額の請負契約等でも、明確な書類が残っておらず、後日、深刻なトラブルに発展することが非常に多いです。したがって、契約を変更する場合も、契約をする時と同じぐらいの注意をもって、変更契約書を作成すべきです。特に、請負契約の業務内容を変更する場合などは、業務内容をどのように変更したかを、第三者が事後的に見ても分かるように、きっちりと書類に残した方が良いと思います。(3) サービス提供・商品引渡時点 サービスの提供等を行う時にも、注意が必要です。第1に、サービスや業務を提供したり、商品を引き渡した事実が明確になるように、受領書を受け取ったり、納品書の控えに受領印をもらったりするようにしてください。取引内容によって、もらうべき書類(残すべき証拠)は変わってきますが、いつ、どのようなサービス・業務・商品を提供したのかを事後的に証明できるようにしておくことが重要です。第2に、サービスや業務を提供したり、商品を引き渡す際には、代金の金額と支払日を相手方に確認してもらうようにしてください。相手方に交付する請求書、受領書の控えや納品書等に金額と支払日を明記するのが一般的な方法でしょう。ただし、過去に支払いが遅れたことがあるような問題のある取引先については、サービスや業務を提供したり、商品を引き渡す際に、「支払日に全額を支払う。」旨を改めて約束してもらった方が良いかもしれません。(4) 代金支払日前後 これまでの取引で、支払いに問題のなかった相手方に対しては、代金支払日まで何もしなくても良いと思います。しかしながら、これまで何度か支払いが遅れたことのあるなどの問題のある相手方については、契約又は契約変更の時点や、サービス・業務の提供又は商品の引渡し時点における対策だけでは不十分かもしれません。支払日の直前に、連絡を取って、改めて、代金の金額と支払日の確認をし、相手方から確実に支払うことを約束してもらうぐらいのことをしても良いでしょう。支払日には、相手方からの入金がなされていることをきちんと確認してください。もし、代金全額の入金がない場合には、遅くとも支払日の翌日には相手方に電話やLINEなどで連絡をして、状況を確認すべきです。単に手違いで、相手方が振込手続きを忘れていただけのような場合には、いつまでに支払ってくれるかを確認し、約束の日に代金全額が入金されていることを確認すれば良いでしょう。しかし、相手方が、「サービス・業務・商品の内容に不満があるから支払わない。」とか、「少し支払いを待って欲しい。」と言って、支払ってくれないという場合はどうでしょうか?待っているだけでは支払ってもらえませんので、すぐに次の手を講じるべきでしょう。(5) 代金支払遅滞後 相手方が、サービス・業務・商品の内容に不満を持っているから支払わないという場合には、まずは、相手方からきちんと話を聞いて、その不満が正当なものか、それとも、言い掛かりの類いであるのかを判別してください。もし、実際にサービス・業務・商品に問題があったのであれば、誠実に対応してください。相手方の不満が解消すれば、代金を支払ってもらえる可能性は高くなるでしょう。これに対し、言い掛かりの類いであれば、資金繰りが厳しいなどの別の理由で支払いを渋っていると見るべきでしょう。あなたの請求が正当なものであることを説明し、約束通りに支払うことを強く求めていくべきでしょう。それでも支払ってくれないのであれば、連帯保証人に請求したり、抵当権を実行したりして回収することを考えます。また、相手方が、資金繰りの都合で支払いができないという場合には、すぐに、相手方と会い、いつまでに支払ってくれるかを文書で明確にしてもらい、かつ、その支払予定に具体的な裏付けがあるかどうかを確認すべきでしょう。たとえば、相手方が「1週間後に、A社から100万円が入金される予定です。ここから代金80万円を全額一括でお支払いします。」というのであれば、1週間後に80万円を支払う旨の念書を書いてもらうだけでなく、A社との間の契約書等を見せてもらって、100万円の入金の話を信用できるのかどうかを確認すべきです。もし、裏付けがない又は不十分であれば、連帯保証人に請求したり、抵当権を実行したりして回収することを考えます。(6) 訴訟等 以上の対策を講じても回収の目処が立たないのであれば、速やかに訴訟(裁判)を提起することも検討すべきでしょう。訴訟提起をする場合には、契約書等に契約内容を明記しておいたり、受領書や納品書控え等で、いつ、どのようなサービス・業務・商品を提供したのか等を明確にしておいたことが役に立ってきます。訴訟提起を検討する際には、相手方が持っている財産(預貯金、不動産、売掛金、商品在庫等)の調査も併せて行った方が良いです。もし、財産があるのであれば、その財産を仮に差し押さえる裁判等をすることも検討します。4. 最後に 相手方が約束通りに支払ってくれない場合には、できる限り早く、債権回収に向けた手続きを進めないと、回収の可能性は下がっていく一方です。ですから、支払日に入金を確認できなかった時点で、回収に向けた対応を直ちに始めるべきです。もし、回収の具体的見込みが立たないのであれば、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。債権回収は、相手方の財産が散逸してしまう前に行わなければ意味がありませんので、迅速に手続きを進めていくことがとても重要です。2022年1月16日