交通事故を起こした加害者には、3つの責任の問題が生じます。1. 民事上の責任 1つ目は、民事上の損害賠償責任です。加害者は、交通事故によって被害者に与えた損害を賠償しなければなりません。加害者が被害者に与える損害には、2種類あります。人に怪我をさせたり、死亡させたりしてしまったことに伴って発生する人的損害と、車などを壊してしまったことに伴って発生する物的損害です。(1) 高額賠償事例(人身損害) 人身損害(人的損害)の損害額が最高額と言われているのは、眼科医院を経営する医師が、国道を横断中にタクシーにはねられて死亡した事例です(横浜地方裁判所平成23年11月1日判決)。裁判所が認定した損害の総額は、約5億2853万円(内訳:慰謝料2800万円、逸失利益4億7852万円、治療費約41万円、葬儀費用150万円、着衣損害10万円、弁護士費用2000万円)でした。ただし、横断禁止規制のある幹線道路であったこと、付近に横断歩道橋があったこと等の事情から、裁判所は、医師とタクシー側の過失割合を60:40と認定し、タクシー会社が支払いを命じられた金額の元金は約2億2341万円となっています。(2) 高額賠償事例(物的損害) 物的損害の損害額が最高額と言われているのは、首都高速道路の熊野町ジャンクション付近において、ガソリン及び軽油合計20キロリットルを積載したタンクローリーが横転して炎上した熊野町ジャンクション火災事故に関するものです(東京地方裁判所平成28年7月14日判決)。裁判所は、首都高速道路株式会社に合計約34億3431万円(内訳:復旧工事費用約17億3883万円、営業損失約15億4305万円ほか)の損害が発生したと認め、運送会社及び運転手に対し、既払共済金の充当処理等をした後の残元金約27億0315万円及び遅延損害金の支払いを命じました。この事故では、首都高速道路の他に、隣接マンション等にも損害が発生したとされており、損害の総額は更に高額だったことになります。(3) 任意自動車保険と特約の必要性 上の2つの事例ほど高額ではなくても、被害者が若かったり、被害者の所得が高かったりする場合に、被害者が死亡したり、被害者に重い後遺障害が残ったりすれば、1億円を超えるような損害額になることは十分あり得ます。そのため、対人賠償責任及び対物賠償責任の保険金額(保険会社が支払う保険金の限度額)を無制限に設定した任意自動車保険(任意自動車共済)に加入し、かつ、人身傷害補償特約、弁護士費用特約など適宜の特約を付けることが重要になってきます。任意自動車保険と特約によって、交通事故の加害者になってしまう場合はもちろん、被害者になってしまう場合にも一定程度備えることができます。任意自動車保険と特約については、別コラム「自動車保険 ~ 交通事故の加害者になる場合への備え」及び「自動車保険のお勧めの特約(1) ~ 他車運転特約」等にて説明しています。2. 刑事上の責任 2つ目は、刑事責任です。無免許運転をしたり、お酒を飲んで運転したり、運転上必要な注意を怠ったりして、交通事故を起こして人を死傷させたりした場合、加害者は、刑事責任を問われることになります。沖縄県は、人身事故に占める飲酒絡みの事故の割合及び死亡事故に占める飲酒絡みの事故の割合が高く、2021年は、いずれも全国平均の約2.3倍の高さでした(沖縄県警察本部「飲酒運転根絶活動マニュアル」)。飲酒絡みの人身事故を起こした加害者の刑事責任は重いです。例えば、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて、人に怪我を負わせた場合は1月以上15年以下の懲役刑に処されますし、人を死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役刑に処されます(加重減軽がない場合)。交通事故が発生した場合、運転者は、直ちに運転を停止し、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければなりません。また、警察官に交通事故の状況を報告しなければいけません。(詳細は、別コラム「交通事故発生時の対応(1) ~ 加害者編」をご覧ください。)無免許運転、飲酒運転等の事情がなかったとしても、警察官への報告や負傷者の救護を怠れば、刑事責任を問われることがあります。人身事故を起こした加害者に対する刑事処分が決められる際は、民事上の損害賠償責任に関する事情(被害者との間の示談の成立、被害者に対して十分な額の損害賠償金を支払える任意自動車保険への加入等)も影響してきます。3. 行政上の責任 3つ目は、行政上の責任です。交通事故を起こすと、事故の種別(死亡事故か傷害事故か物損事故か)、負傷の程度、責任の程度に応じて違反点数が加算され、点数が一定の基準に達すると、運転免許の効力の停止や取消処分などの行政処分を受けることになります。交通違反の点数制度については、警視庁HPに詳しい説明があります。なお、民事上の損害賠償責任と行政上の責任は、相互に関係しません。2022年3月29日(2022年6月16日一部訂正)