1. 逮捕とは 刑事事件が発生し、捜査機関がこれを認知すると、捜査が行われます。捜査機関は、捜査を通じて、犯人の特定を試みます。罪を犯したと疑われて、捜査の対象となっている人のことを「被疑者」といいます。「逮捕」とは、被疑者の身体を拘束すること及び引き続き短時間その拘束を続けることをいいます。2. 逮捕の種類 逮捕には、通常逮捕、緊急逮捕及び現行犯逮捕の3種類あります。通常逮捕通常逮捕は、被疑者が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」場合で、逮捕する必要があるときに、予め裁判官に逮捕状を発付してもらって行われるものです。通常逮捕は、原則として、被疑者に逮捕状を示して行われます。緊急逮捕緊急逮捕は、一定の重い罪につき、「罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合」で、急を要するため裁判官に逮捕状を請求することができないときに、先に被疑者の身体を拘束し、その後直ちに逮捕状を請求するものです。現行犯逮捕現行犯逮捕は、現に罪を行っているか、行い終わった直後の者を、逮捕状なしに逮捕するものです。現行犯逮捕は、捜査機関に限らず、誰でもできます。なお、捜査機関は、常に被疑者のことを逮捕するわけではなく、逮捕しないまま捜査を続けることもあります。3. 逮捕後の手続等 逮捕による身体拘束後の手続きは、一般的には、次のとおりです。(1) 逮捕段階 ① 逮捕段階の手続 逮捕後、被疑者は、犯罪事実の要旨と弁護人が選任できることを告げられた上で、弁解の機会を与えられます。逮捕された被疑者は、通常、その身体を警察署内の留置施設にて拘束(「留置」といいます。)され、警察官の取調べを受けます。警察は、被疑者の身体拘束の時点から48時間以内に、事件を検察官に送致します。検察官は、被疑者のことを簡単に取り調べた上で、必要があれば、被疑者を受け取ってから24時間以内に、被疑者の「勾留」(※後述)を請求します。この逮捕段階の身体拘束は、最大72時間続きます。② 逮捕段階の面会の制限 逮捕段階において、被疑者は、家族や友人と面会することができません。逮捕段階の被疑者と面会できるのは、弁護士だけです。(2) 勾留段階 ① 勾留段階の手続 「勾留」とは、逮捕段階にあった被疑者の身体を更に10日間拘束するための裁判とその拘束のことをいいます。検察官から勾留の請求を受けると、裁判官は、被疑者に対して勾留質問を行った後、勾留するかどうかを決めます。勾留が認められるのは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、かつ、住居不定、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあるときに限られます。私が弁護士として活動し始めてから暫くの間は、このような厳しい要件にもかかわらず、勾留は、比較的簡単に認められていたように思います。例えば、私が2012年に担当した事件では、被疑者は、家族と一緒に定まった住所に住み、仕事もあり、罪を犯したことも認め、被害者との間の示談も成立済みで、かつ、被害者と目撃者の事情聴取も済んでいたのに、勾留が認められてしまいました。(正確には、次のとおりです。勾留後に私が国選弁護人に選任され、選任の2日後に、被害者に被害弁償をして示談が成立し、被害者は被疑者のことを許してくださいました。これを受けて、私は、検察官に不起訴にするように申し入れたのですが、応じてくれなかったので、その翌日に勾留の裁判に対する準抗告を申し立てました。裁判所は、示談成立済みであるにもかかわらず、罪証隠滅のおそれも逃亡のおそれも認められるとして、準抗告申立てを棄却しました。以上の結果、被疑者は釈放されず、勾留が続けられてしまいました。)しかし、近年、勾留の要件は、より厳格に判断され、安易な勾留は減っているようです。② 勾留延長 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、勾留を最大10日間延長することができます。被疑者は、当初の勾留だけでも逮捕段階から通算して約13日間も身体を拘束されており、その間、家族に会えず、仕事等もできません。勾留延長は、真にやむを得ない場合に限定されるべきと言えます。③ 起訴又は不起訴 検察官は、必要な捜査をした上で、勾留又は勾留延長の期間満了までに、被疑者のことを起訴(刑事裁判にかけること)又は釈放しなければなりません。釈放の場合は、処分保留という形で釈放された後に、不起訴とされることが多いようです。④ 勾留段階の面会の制限 勾留段階の身体拘束は、最大20日間続きます。この間、被疑者は、原則として、家族や友人と面会することができます。ただし、警察官が立ち会ったり、面会時間が短かったりするなどの制限がありますので、自由に誰とでも会えるということではありません。しかも、事件によっては、「接見禁止」という決定により、弁護士だけ又は弁護士と親族等の一部の者だけとしか会えなくなってしまうことがあります。次のコラム「逮捕されたらどうなるか(2) ~ 虚偽の自白、弁護士の視点」に続きます。2022年4月18日