前のコラム「逮捕されたらどうなるか(1) ~ 逮捕の種類と逮捕後の手続」の続きです。4. 虚偽の自白 (1) 被疑者の心境 被疑者(罪を犯したと疑われて、捜査の対象となっている人)は、逮捕された場合、最大23日もの間、警察署内に留置され、自由に人と会うこともできなくなります。被疑者は、そのような中で、警察や検察から取り調べを受けるため、非常に心細くなります。人によっては、警察官の執拗な取り調べに根負けしてしまったり、迎合してしまったりして、やってもいない罪を犯したという虚偽の自白をしてしまう程です。(2) 冤罪(えんざい)事件 被疑者が虚偽の自白をした冤罪事件で特に有名なのは、足利事件と湖東記念病院事件です。足利事件の菅家利和さんは、4歳の女児を殺した犯人と間違われました。菅家さんは、虚偽の自白をさせられてしまい、わいせつ誘拐、殺人及び死体遺棄の罪について無期懲役の判決を下されました。菅家さんは、逮捕から釈放まで、約17年半もの間、身体を拘束されていました。湖東記念病院事件では、看護助手だった西山美香さんは、虚偽の自白をし、72歳の入院患者の呼吸器の管を引き抜いて殺したとして有罪判決を受け、12年間服役しました。西山さんのことを無罪とした再審判決(大津地方裁判所令和2年3月31日判決)は、「警察官は、被告人(※西山さん)が、弁護人との接見後、否認に転じると、被告人の恋愛感情や迎合的な供述態度を熟知しつつ、これに乗じて被告人の供述をコントロールしようとの意図の下で、不当・不適切な手段を用いて、恋愛感情を増進させつつ、他方で弁護人への不信感を醸成させ、被告人に対する影響力を独占し、その供述を誘導、コントロールしようとした」と認定しています。5. 弁護士の視点 逮捕勾留は、罰ではありません。被疑者が罪を犯していたとしても、刑事裁判を経た後に適切な罰を受けてもらえば良いだけで、罪を犯したことが確定してもいない捜査段階において不必要にその身体を拘束すべきとは思えません。在宅で捜査ができるのであれば、そもそも逮捕勾留をしないか、早期に釈放すべきです。弁護士は、警察署でアクリル板越しに被疑者と面会すると、1日も早く釈放してあげたいという気持ちになります(釈放を決めるのは裁判官や検察官なので、弁護士が釈放してあげられるわけではないのですが、こういう気持ちになります。)。事件の種類・内容によっては、逮捕勾留がやむを得ない場合もあるのですが、例えば、被害者がいる比較的軽微な犯罪で、被疑者も罪を認めているようなときは、弁護士が逮捕直後から活動を開始し、被害者との間で示談を成立させることができれば、早期に釈放してもらえる可能性があります。例えば、2012年に私選弁護人として担当した事件において、私は、逮捕段階で、ご家族から依頼を受けました。私は、その日のうちに被疑者ご本人と警察署で面会して弁護人に選任してもらい、翌日には被害者に被害弁償をして示談を成立させることができました。この活動の結果、被疑者は逮捕段階で釈放してもらうことができ、生活への影響を最小限に止めることができました。ご家族が逮捕直後に弁護士に依頼できたこと、家族がすぐに被害弁償金を準備できたこと、弁護士がすぐに被害者と面会できたこと、被害者の方が寛大であったこと等、早期に示談を成立させるための条件が偶々揃っていたことが幸いしたと思います。2022年4月18日