1. 破産以外の方法を選択するデメリットとリスク 個人が債務(借金等)を返済していくことが難しくなった場合、どうしたら良いでしょうか?債務の返済に充てることができる額(収入から支出を控除した可処分所得)よりも毎月の返済額の方が多いときには、破産を選択するのが最も合理的ということが多いです。しかし、個人が行う「破産」という手続には多くの誤解があるためか、債務整理の方法として破産を選択するのが最善なのに、任意整理や個人再生を選択してしまった結果、より長期間、債務の問題に苦しむという例が後を絶ちません。(債務整理の方法全般については、別コラム「債務整理の6つの方法」にて説明しています。)任意整理や個人再生を選択する場合、債務者は、通常3~5年程度かけて分割弁済していきます。しかし、破産であれば、ここまで長い時間を掛けずに経済的な再スタートを果たすことができます。数年単位の時間がかかるのは、任意整理・個人再生の大きなデメリットです。さらに、計画どおりに分割弁済することができなくなったり、債権者の同意が得られずに小規模個人再生の再生計画案が否決されたりするリスクも大きいです。このような場合、結局、債務者は破産するしかなくなりますので、経済的な再スタートは遅くなるし、費用も嵩みます。2. 個人の破産手続 (1) 概要とメリット 破産は、地方裁判所に破産手続開始・免責許可申立書を提出して行います。個人(自然人)の破産手続では、基本的に、一定の範囲を超える財産をお金に換えて全債権者に平等に支払いますが、支払いきれない債務については、ほとんどの場合、支払義務の免除(「免責」といいます。)を受けることができます。(なお、免責を受けられても、税金や養育費などの債務の支払義務は免除されません。)また、一定の範囲の財産や家財道具を手元に残すことができます。破産は、手間のかかる手続ですが、通常であれば、比較的短期間のうちに、債務の問題のせいで破綻してしまった生活を立て直すことができます。破産は、メリットが大きい手続だと言えます。(2) デメリットは本当か? では、デメリットはどうでしょうか?実は、一般の方が個人の破産手続のデメリットだと考えていることの多くは、誤解です。正しくは、次にご説明するとおりです。選挙権、被選挙権に影響はありません。戸籍や住民票に破産した事実が記載されることはありません。親の破産は、子供の就職や結婚に影響しません。友人、近所の方などが破産した事実を知る可能性は低いです。保証人になっていない限り、配偶者、親、子、きょうだいなどが代わりに債務を支払う必要はありません。破産を理由として解雇されることはありません。(なお、手続が終了するまで、保険外交員、警備員、宅地建物取引士、建設業者・労働者派遣事業者・廃棄物処理業者などの事業者やその役員等になることはできません。)家賃を支払ってさえいれば、賃貸住宅から出て行く必要はありません。原則として99万円までの財産や家財道具を手元に残すことができます。自動車も手元に残すことができる場合があります。(那覇地方裁判所の運用を前提とした説明です。自動車につき、沖縄では、初年度登録から7年経過した国産ガソリン車などであれば手元に残すことができます。)破産をすると信用情報機関に事故情報として登録され、一定期間借入れができなくなります。いわゆる「ブラックリストに載る」という状態で、その言葉の響きからか、大きなデメリットであると考えてしまいがちです。しかし、債務の返済ができなくなった方は、債務整理後は、収入の範囲内で生活し、借入れをしないようにすべきなのですから、信用情報機関に事故情報が登録されることをデメリットと捉えること自体がおかしいのです。(事故情報の登録は、2~3か月程度延滞した場合や、任意整理や個人再生をした場合にも行われるので、破産固有の問題ですらありません。)申立ての準備開始から破産の手続が全て終わる(=免責が確定する)まで、短くても半年程度の時間がかかります。申立ての内容によっては、1年以上かかることもあります。それでも、通常は、任意整理や個人再生よりも早く債務の問題から解放されます。3. まとめ 「破産」という言葉のイメージは良くないのですが、上記2.(2)のとおり、デメリットと考えられていることの多くは誤解です。破産は、法律で認められている手続です。債務の問題のせいで破綻してしまった生活を立て直し、経済的に再スタートできるというメリットは大きいです。債務の返済が難しくなったときには、破産することも視野に入れて、ひとまず、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。2022年5月30日