<自動車保険のお勧めの特約> 自動車の任意保険(共済)に加入する主な目的は、交通事故の加害者になり、多額の損害賠償金を支払わなければならない場合に備えることです。(詳しくは、別コラム「自動車保険 ~ 交通事故の加害者になる場合への備え」をご覧ください。)実は、自動車の任意保険に適切な特約を附帯することで、交通事故の加害者になってしまう場合に更に備えることができます。~ 本コラムの前提 ~ このコラムを書くにあたっては、2022年6月時点における損害保険会社7社(大手4社、沖縄県内大手1社、通販型(ダイレクト型)大手2社)及び共済大手2組合の個人向け任意自動車保険(共済)の契約条項(「約款」といいます。)を調査しています。(法人・個人事業主向けの約款は、説明の対象に含めていません。)また、必要に応じて、各社(組合)の任意自動車保険(共済)の商品内容やその約款の解釈について、各社(組合)の契約担当部署、保険金支払担当部署、代理店などに電話で問合せをしています。本コラムは、特定の会社(組合)の任意自動車保険(共済)を推奨することを目的としていないため、上記9社(組合)をそれぞれA社~I社と呼んで、各社の約款の内容を説明しています。また、任意共済もまとめて「任意保険」として扱って説明をしています。1. 他車運転特約 任意自動車保険の特約のうち、他車運転特約は、大きな安心感を与えてくれるお勧めの特約です。(他車運転危険補償特約などと呼ぶ会社もあります。)(1) 特約の意義 他車運転特約は、友人の車、レンタカーや代車など、他の自動車を一時的に借りて運転中に事故を起こした場合に、自分の任意自動車保険の契約条件に従って対人・対物賠償責任条項や特約を適用し、自分の任意保険会社に保険金を支払ってもらうための特約です。任意自動車保険の他者運転特約における「他の自動車」は、用途車種が自家用8車種(自家用普通自動車など)で、自分や家族が所有又は常時使用する自動車以外の自動車のことをいいます。通常、二輪自動車や原動機付自転車は含みません。停車・駐車中の事故、自動車を取り扱う業務として他の自動車を運転している場合の事故、使用者の業務のために使用者の自動車を運転している場合の事故などに対して保険金は支払われません。(2) 特約のセット 個人が自家用車用の任意自動車保険に加入する場合、2022年6月時点の約款を確認した9社は、他車運転特約を自動的に附帯する(又は基本契約に含める)扱いにしています。したがって、他車運転特約を附帯するための手続は特に必要ありません。(3) 特約の必要性・有用性 例えば、友人の自動車に同乗して外出し、途中で運転を交代したとしましょう。あるいは、友人の車に同乗して居酒屋に行き、帰りは、飲酒をした友人に代わって飲酒をしなかった自分が友人の自動車を運転したとしましょう。このように、他人の自動車をちょっと借りて運転している時に事故を起こしてしまったような場合に、他車運転特約があると、自分の自動車の任意保険で、被害者に対して損害賠償金を支払うことができます。これには大きく2つの意味があります。1つ目は、自分の自動車の任意保険を使うので、借りた自動車の任意保険の等級をダウンさせることなく、被害者に対して損害賠償金を支払うことができるということです。2つ目は、借りた自動車が任意保険に加入していない場合や、借りた自動車の任意保険の保険金支払限度額(「保険金額」といいます。)よりも損害額が大きい場合に、自分の自動車の任意保険を使って、被害者に対して損害賠償金を支払うことができるということです。(4) 他の自動車が自賠責無保険の場合は? ここで1つ疑問が生じます。任意保険は、対人賠償責任のうちの自賠責保険部分を支払うことを目的としていません。自賠責保険の保険金額(上限)を超えた人的損害を発生させてしまった場合に、その上限を超えた部分の損害賠償金を支払うための保険です。(自賠責保険と任意保険の違いは、別コラム「自動車保険 ~ 交通事故の加害者になる場合への備え」をご参照ください。)もし、友人の自動車が自賠責無保険であった場合、対人賠償責任のうち自賠責保険から支払われるべきであった金額は誰が負担することになるのでしょうか?① 約款の文言から自賠責部分をカバーしていることが分かる2社 今回約款を調査した9社のうち、A社とI社の他車運転特約は、「他の自動車に自賠責保険等の契約が締結されていない場合は、自賠責保険等によって支払われる金額に相当する金額を含めて、対人賠償保険金を支払います。」との条項になっていました。A社とI社の任意自動車保険に加入し、対人賠償責任条項の保険金額を無制限に設定しておけば、A社とI社は、他の自動車が自賠責無保険であっても、この条項に基づき、自賠責部分も含めて、法律上の対人損害賠償責任を負う金額全部を支払ってくれるということが分かります。② 自賠責部分をカバーしているかが分からない会社 残り7社の他車運転特約の条項は、分かりにくい書きぶりとなっていました。概ね、「自賠責保険等によって支払われる金額がある場合は、損害の額が自賠責保険等によって支払われる金額を超過するときに限り、その超過額に対してのみ保険金を支払います。」と規定されています。自賠責保険等によって支払われる金額がない場合に、自賠責部分に対しても保険金を支払ってくれるのか否かが明確に書かれていません。この点につき、7社の契約担当部署等に電話で問い合わせたところ、D社のみが「自賠責部分も補償します。」との回答でした。他は、「当社は自賠責部分を超えた分のみ補償するので、自賠責部分は他の自動車を運転していた人の自己負担となります。」(B社、C社、E社、F社、G社)、「実際に自賠責無保険の他車運転の人身事故が発生してみないと分かりません。」(H社)との回答でした。このうち、C社については、電話対応をしてくれた方が実際に自賠責無保険の他車運転の人身事故を担当したことがあり、「自賠責部分は、他の自動車を運転していた人(=C社の契約者)の負担として処理をしました。」と説明してくれました。私は、他車運転特約の趣旨や約款の他の条項との関係等から、この7社の約款の条項は、自賠責部分に対しても保険金を支払うものと解釈すべきと考えます。しかしながら、保険会社が自賠責部分を支払わないと主張するのであれば、裁判所で争わなければなりませんし、裁判所が私の考えのとおりに約款の条項を解釈してくれるかも分かりません。自賠責無保険の自動車が一定数いることを踏まえると(別コラム「自動車保険のお勧めの特約(4) ~ 無保険車傷害特約」にて説明しています。)、D社も含め、約款の文言が明確ではないというだけで、リスクは十分に大きいと言えます。加害者として多額の損害賠償金を支払うリスクに備えるために他車運転特約付きの任意自動車保険に加入したはずなのに、実は、他車運転のリスク全部をカバーできているかが分からないというのですから笑えません。③ 実は自賠責部分をカバーしている1社 G社の電話対応をしてくれた方は、上記②のとおり、「自賠責部分は他の自動車を運転していた人の自己負担となります。」と回答していました。しかしながら、G社の約款が載っている冊子を確認すると、他車運転特約を説明している別のページに、「他の自動車に自賠責保険がついていない場合は、自賠責保険に加入していれば支払われるであろう金額を差し引かずに対人賠償責任条項により保険金を支払います。」旨の注意書きがありました。G社の約款の条項は、この注意書きのとおりに解釈されることになるので、対人賠償責任条項の保険金額を無制限に設定しておけば、G社は、他の自動車が自賠責無保険であっても、(人身損害の保険金支払担当者がこの注意書きを認識している限り)自賠責部分も含めて、法律上の対人損害賠償責任を負う金額全部を支払ってくれることになります。(5) まとめ 上記(4)の調査結果から言えることは、以下の3つです。保険会社の担当者の口頭の説明を鵜呑みにすることはできません。任意自動車保険の契約内容を正確に把握するためには、約款の条項及び約款が載っている冊子、重要事項説明書等に記載されている説明内容を確認する必要があります。A社、G社及びI社の任意自動車保険の他車運転特約は、借りた他の自動車が自賠責無保険でも、保険会社が自賠責部分も含めて対人賠償責任保険金を支払ってくれます。対人賠償責任条項の保険金額を無制限に設定しておけば、基本的に保険会社が法律上の対人損害賠償責任を負う金額全部を支払ってくれる(=自己負担が発生しない)ので、安心です。B~F及びHの6社の他車運転特約は、他の自動車を運転して事故を起こした場合に、対人損害賠償責任のうちの自賠責部分について保険金を支払ってくれず、自己負担が発生する可能性があります。自賠責保険によって支払われる保険金の額は十分とは言えないものの、カバーする範囲は狭くありません。例えば、被害者が怪我をして、重大な後遺障害が残った場合の自賠責保険金は、被害者1名あたり最大4120万円になります。この自賠責部分を保険会社が支払ってくれないというリスクは決して無視できないため、他の自動車を運転するのであれば、その自動車が自賠責保険に加入していることを確認するようにしてください。残念ながら、B~F及びHの6社の任意自動車保険では、他車運転特約が自動的に附帯されているにもかかわらず、安心して他の自動車を借りて運転することができないのです。次のコラム「自動車保険のお勧めの特約(2) ~ 対物超過修理費用特約」に続きます。2022年6月13日