1. 遺産共有 相続人が1名の場合、その相続人は、原則として、単独でお亡くなりになった方(「被相続人」といいます。)の財産を承継します。(例外は、その相続人が単純承認せずに相続放棄をした場合や、被相続人が相続人以外の者に対して遺贈していた場合などです。)これに対し、相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで、これら複数の相続人(「共同相続人」といいます。)は、被相続人の財産を共有します(民法第898条。このことを通常の共有と区別して、「遺産共有」と呼びます。相続人の範囲や後述する法定相続分については別コラム「相続人の範囲と法定相続分」を参照してください。)。では、遺産共有状態の相続財産は、誰がどのように管理等をすることになるのでしょうか?2. 共同相続人による管理等 多くの場合、遺産分割が終わるまで、共同相続人が共同で相続財産を管理等をすることになります。管理等にあたっては、民法の通常の共有に関する規定(民法第249条~第264条)が適用されます。なお、2023(令和5)年4月1日施行予定の「民法の一部を改正する法律」(「令和3年改正民法」といいます。)が共有物の変更・管理の規定を見直していますので、改正民法施行前後の違いも併せて説明します。(1) 使用収益 共同相続人は、その持分(相続分)に応じて相続財産を使用収益することができます(民法第249条)。細かく言えば、相続分には、具体的相続分、指定相続分及び法定相続分の3つあります。令和3年改正民法第898条2項は、遺言による相続分の指定がない場合は、法定相続分をもって各相続人の共有持分とする旨を規定しています。特定の共同相続人がその相続分を超えて相続財産を使用収益した場合には、遺産分割の際に、事案に応じて適宜の調整を行うようにしてください。例えば、共同相続人の1人が、相続財産中の不動産を賃貸して賃料収入を得ていたり、農地を耕作して収益を得ていたりする場合であれば、収入・収益から、管理費用・労力の対価を控除した残りを遺産分割の対象とするのが公平でしょう。令和3年改正民法第249条1項も、「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。」と規定しています。他方、被相続人名義の建物に共同相続人の1人と同居していた被相続人が死亡した後、遺産分割が終わるまで、その共同相続人がその建物に住み続けた場合は、通常であれば、不当利得の問題は生じないため、遺産分割の際も特に考慮しなくて良いと思います(最高裁判所平成8年12月17日判決参照)。(2) 処分行為・変更行為 処分行為・変更行為(売却、借地借家法に基づく借地権・普通借家権の設定、担保権の設定、宅地造成など)をするには、相続人全員の同意が必要になります(民法第251条)。もっとも、売却などの処分行為は、遺産分割協議を成立させた上で行うことの方が多いでしょう。なお、令和3年改正民法施行後は、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(「軽微変更」といいます。)は、次の管理行為として、各相続人の相続分の過半数で決定することができるようになります(令和3年改正民法第251条1項、第252条1項)。例えば、砂利道のアスファルト舗装工事や、建物の外壁や屋上の防水・塗装工事などが、この軽微変更に当たると考えられています。(3) 管理行為 管理行為(相続財産を使用する共有者の決定、短期の賃借権等の設定など)は、各相続人の相続分の過半数で決定できます(民法第252条本文、令和3年改正民法第252条4項)。なお、配偶者居住権が成立している場合には、持分の過半数により使用者を決定したとしても、配偶者居住権の消滅要件(民法第1032条4項、第1038条3項)を充足しない限り、配偶者居住権は存続します。(4) 保存行為 保存行為(軽微な修繕、固定資産税の納付、不法占拠者の排除など)は、各相続人が単独でできます(民法第252条ただし書)。なお、令和3年改正民法は、以下の規定を追加する見直しも行っています。もっとも、遺産分割前の相続財産の管理にこれらの規定を活用することはあまりないでしょう。共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにしない共有者がいる場合は、裁判所の決定を得て、他の共有者の持分の過半数により、共有物の管理に関する事項を決定することができるようになります(令和3年改正民法第251条2項2号)。必要な調査を尽くしても氏名等や所在を知ることができない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、以下のことができるようになります。① 他の共有者の持分の過半数により、共有物の管理に関する事項を決定すること(令和3年改正民法第251条2項1号)② 他の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること(令和3年改正民法第251条2項)3. 管理者による管理 (1) 共同相続人が選任する管理者による管理 共同相続人全員の合意によって、管理者を選任し、相続財産を管理してもらうことができます。令和3年改正民法施行後であれば、各相続人の相続分の過半数で、相続財産の管理者の選任・解任をすることができます(令和3年改正民法第252条1項)。共同相続人から選任された管理者は、共同相続人が決定して管理者に委任した管理に関する事項に従って、上記1項(3)の管理行為と同項(4)の保存行為をすることになります。(2) 遺言執行者による管理 被相続人が遺言書を残した場合で、遺言執行者が選任されているとき、遺言執行者は、遺言の執行に必要な範囲で相続財産の管理等を行います(民法第1012条1項)。相続人は、相続財産の処分やその他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条1項)。(3) 遺産分割前の保全処分としての管理者による管理 上記の場合の他には、遺産分割の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるとき、裁判所が、遺産分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することがあります(家事事件手続法第200条1項)。この場合、財産の管理者は、不在者の財産管理人の規定に基づき、「代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為」、上記1項(4)の保存行為等をすることになります(家事事件手続法第200条4項、民法第27条3項、第28条、103条)。2022年7月11日