前のコラム「相続人の変動(1) ~ 相続分の譲渡」の続きです。2. 相続分の放棄 (1) 意義 相続分の放棄は、相続人が、相続債務の負担を負いつつ、遺産分割手続において積極財産の取得をせずに、他の相続人に自らの相続分を帰属させるために行われる実務上の手続です。明文の規定はありません。相続放棄とは異なり、相続分の放棄をしても、相続人の地位は失いません。※ 「相続分の放棄」と「相続放棄」は、全く異なる手続です。混乱しないように気を付けてお読みください。(2) 目的 明文の規定のある相続放棄は、原則3か月の熟慮期間内に手続を行う必要あります(別コラム「相続放棄 ~ 債務を相続しないために(令和3年改正民法対応)」をご参照ください。)。相続分の放棄は、相続放棄をし損ねた相続人が、自ら積極財産を取得せず、他の相続人全員(又は同順位の他の相続人全員)に自らの相続分を帰属させることによって、自らが遺産分割手続に関与しなくて済むようにし、他の相続人間の遺産分割を巡る紛争に巻き込まれないようにすることを目的として行われます。(3) 手続 相続分の放棄は、遺産分割協議の成立前であればいつでもできます。もっとも、実際は、家庭裁判所における遺産分割調停手続の中で、相続分放棄書及び相続分放棄届出書を提出して相続分の放棄を行うケースがほとんどでしょう。2022年8月19日