前のコラム「交通事故発生時の対応(1) ~ 加害者編」の続きです。2. 交通事故発生時の対応 ~ 被害者になってしまった場合 任意自動車保険(共済)に適切な特約を付けることで、交通事故が発生して被害者となってしまう場合に一定程度備えることができます。(別コラム「自動車保険のお勧めの特約(3) ~ 人身傷害保険」等をご参照ください。)では、実際に交通事故の被害者になってしまった場合は、どうしたら良いのでしょうか。(1) 事故発生直後 ① 負傷者の救護等 交通事故が発生したときは、直ちに運転を止め、安全を確保した上で負傷者を救護してください。(状況に応じて、応急手当を行う、救急車を要請する、最寄りの病院に連れて行くなどをしてください。)また、二次災害等が起きないように、道路における危険を防止する措置を講じてください。(事故車の移動、ハザードランプの点滅、停止表示板・発煙筒の設置などを行ってください。)② 警察 交通事故の大小にかかわらず、必ず、すぐに警察を呼んでください。警察が来るのを待つ間に、可能であれば、事故状況(両当事者の進行方向、スピード、衝突位置や停止位置、信号の色など)、事故直後の車両の状況、負傷者がいる場合には負傷の箇所や程度などについて、メモを取ったり、写真を撮影したりしてください。ドライブレコーダーを搭載している場合には、事故状況を録画した部分が上書きされないように、必要に応じてSDカードを抜いておきましょう。相手方からは、氏名・住所・連絡先(相手方が勤務中であれば勤務先の情報)を聞くと共に、相手方自動車の車両番号、任意自動車保険(共済)の加入の有無や保険会社(共済組合)名も確認し、メモをしておきましょう。目撃者がいる場合には、氏名・住所・連絡先や目撃内容を聞いて、メモしておきましょう。誰かが怪我をしている場合は、怪我の程度が軽かったとしても、警察にその交通事故を人身事故として処理してもらうようにしてください。怪我をしたにもかかわらず人身事故として処理してもらっていないと、実況見分調書という書類が作られずに、後々、過失割合(過失相殺率)を決める際に問題となることがあります。(ただし、人身事故としての処理は、刑事事件として被害申告をすることに伴って行われる関係上、警察に診断書を提出する、供述調書や実況見分調書の作成に協力するなど、捜査に協力する必要が生じます。)なお、事故処理の際に、警察官が過失割合について何らかの見解を述べることが稀にあるようですが、全く当てになりません。(警察は、民事不介入が原則です。沖縄県内の警察署の交通課等にて勤務経験のある現役警察官の方に確認したところ、民事上の紛争に巻き込まれること等を防ぐため、「現場で過失割合の説明はしないように指導している」とのことであり、「事故を見ていない警察官が過失割合を言うのはナンセンスである」とのご意見でした。)③ 保険会社 加害者には、加害者の保険会社に交通事故を起こしたことを速やかに報告してもらってください。被害者も、自分の保険会社に交通事故に遭ったことを速やかに報告しましょう。被害者側の運転者や同乗者が怪我をし、加害者が自動車保険に加入していない場合などにおいて、被害者側の人身傷害保険を使う必要が生じます。このような場合は、保険会社に、人身傷害保険が使えるかどうかを確認してください。併せて、弁護士費用特約など、他に使える特約があるかどうかも確認しておいた方が良いでしょう。交通事故に遭った自動車に人身傷害保険を付けていない場合(又は、人身傷害保険への加入があるけれども、保険金額が十分でない場合)は、運転者やその同居親族(未婚者であれば別居の親も含みます。)の自動車に人身傷害保険が付いていないかを確認した方が良いときもあります。④ 病院 自分や同乗者が怪我をしている場合には、速やかに(できる限り事故当日に)病院に行って、医師の診察を受けてください。診察時(特に初診時)は、医師に対し、交通事故による身体の異常・症状を全て伝えるようにしてください。交通事故が発生した後、日数が経過してから病院に行ったような場合や、初診時に医師に伝えなかった症状がある場合には、別の事情(例えば、その後に発生した別の交通事故)で怪我をしたなどと疑われる原因になりかねません。(2) 損害賠償請求までの流れ ① 損害の費目 被害者が被る損害の費目は、下記のとおりです。このうちの人身損害(下記1.~4.)は、治療が終了し、後遺障害の有無等が判明した後に初めて算定できるようになるため、その請求も、通常は、全ての治療が終わった後に行います。積極損害(治療費、通院交通費など)休業損害(治療が終わるまでの間に働けなかった分の現実の収入減に対する補償)逸失利益(後遺障害が残ったり、死亡したりして働けなくなった将来分の収入に対する補償)慰謝料物的損害(車両や携行品などの損傷に対する補償)② 人身損害(人的損害) - 治療期間中 -被害者は、通常、加害者側の任意保険会社(又は人身傷害保険利用時の被害者側の任意保険会社)に治療費や休業損害等を負担してもらって治療を受けます。治療期間中は、忙しくても、必ず医師の指示に従って、定期的に通院するようにしてください。通院期間及び通院頻度は、通院に対する慰謝料額に影響してくることがあります。(なお、通院が30日以上中断している場合、保険会社は、通常、通院再開後の治療費を支払いません。)整骨院へ通うのは、医師から明示的な指示があった場合に限った方が良いでしょう。被害者が通院の継続を希望していても、保険会社が「症状の改善が見込めないから、治療費の支払を打ち切る」と言ってくることがあります。このような場合でも、医学的に見て症状の改善を見込むことができ、治療の必要性が認められるのであれば、医師に、その旨を保険会社に提出する診断書やカルテに記載してもらうようにしてください。保険会社は、診断書の記載を確認した上で、追加の通院を認めるかもしれません。保険会社が追加の通院を認めないとしても、医師が、治療により症状の改善を見込むことができると診断するような状況であれば、健康保険を利用して自費で通院を継続することを検討してください。- 治療終了後 -治療の結果、症状が完全に治癒する場合があります。しかし、何らかの症状が残ったまま、これ以上治療を継続しても、症状の改善が見込めない状態になる場合もあります(この状態のことを「症状固定」といいます。)。何らかの症状が残ったまま症状固定してしまった場合は、医師に後遺障害診断書を作成してもらった上で、この残存する症状が自動車損害賠償保障法上の後遺障害に該当するか否か、該当するとして後遺障害の重さはどの程度かについての認定(「後遺障害等級認定」といいます。)を受けます。後遺障害等級認定の結果に納得がいかない場合は、新たな医学的証拠を取得して異議申立てをするなどします。- 損害額の算定 -治療が終了し、必要に応じて後遺障害等級認定を受けると、怪我等に伴う人身損害(上記①1.~4.)の額を算定することができるようになります。保険会社は、この段階において、被害者に対して、人身損害に対する損害賠償金の最終支払額(正確には、人身損害の額から治療費等の既払金を控除した残額)を提示をしてきます。③ 物的損害 物的損害(上記①5.)に対する損害賠償金の支払は、通常、人身損害に対する損害賠償金の支払に先行して行われます。- 車両の損傷 -被害者は、車両の損傷につき、必要かつ相当な修理費用を加害者に請求することができます。ただし、修理費用が、事故当時の車両価格及び同種の車両を購入するための買替諸費用の合計額を上回る場合は、原則として、その合計額が上限になります。(この場合でも、加害者側が対物超過修理費用特約に加入していれば、実際に修理をするときに限り、被害者は、上回った分の修理費用の一部又は全部を支払ってもらえます。対物超過修理費用特約については、別コラム「自動車保険のお勧めの特約(2) ~ 対物超過修理費用特約」をご参照ください。)加害者側の任意保険会社からの提示額に納得がいかない等の理由で、早期に修理又は買替えをしない方もいらっしゃいますが、代車料等の自己負担額が増えることに繋がりかねませんので、合理的な期間内(やむを得ない場合を除けば、概ね1か月以内)に修理又は買替えすることをお勧め致します。- 携行品等の物品の損傷 -四輪車同士以外の交通事故では、携行品等の物品が損傷することも多いです。交通事故によって物品が損傷した場合、すぐに処分するのではなく、物品の種類・メーカー・型番、損傷状況、修理の可否などが分かるように写真を撮影してください。物品の購入価格、購入時期等を踏まえて、加害者側の任意保険会社から補償をしてもらうことができます。(3) 損害賠償請求にあたって生じる問題 交通事故の被害者は、上記(2)①の損害の全てを加害者から補償してもらえるのでしょうか?多くの場合、答えは「NO」です。被害者が損害額全部を支払ってもらえない理由はさまざまですが、以下の5つが代表的な理由です。① (後遺障害事案の場合) 後遺障害等級認定が適切ではない。② 損害額の算定が適切ではない。③ 過失割合(過失相殺率)の認定が適切ではない。④ 被害者側の過失分について「過失相殺」される。⑤ 加害者が無保険で、かつ、自分で支払う資力もない。(4) 事後的に対処できる問題 後遺障害等級、損害額の算定及び過失割合(上記(3)①~③)に関しては、弁護士に相談したり、事件処理を依頼したりすることで、対処・解決を目指すことができます。交通事故事件を日常的に取り扱っている弁護士が確認すると、加害者側の任意保険会社の提示額は、ほとんどの場合、十分な額ではありません。別コラム「自動車保険 ~ 交通事故の加害者になる場合への備え」2.(2)でご説明した<事例1>の場合、保険会社が最初に被害者ご遺族に提示した額は、最終的な裁判上の和解額よりも2400万円以上も低い金額でした。(もちろん、誠実な提示をする保険会社もありますし、個別事情によっては、加害者側の保険会社からの当初の提示額が満額に近いと評価できることもあります。)また、弁護士が受任して交渉をすると、保険会社がすぐに増額提示をしてくることも多いです。したがって、加害者側の任意保険会社から損害賠償額の提示を受けたときは、その額が妥当かどうか確認するため、示談をする前(=示談書や免責証書に署名押印をする前)に、一度、弁護士の法律相談を受けるようにしてください。法律事務所は敷居が高いとお感じになる方も多いと思いますが、街中にある一般的な法律事務所の場合、法律相談を受けるだけで高額の費用が発生することはありません。任意自動車保険に弁護士費用特約を付けていれば、法律相談料は保険会社が支払ってくれます。気軽に法律相談の予約をしてみてください。(5) 事後的に対処できない問題 ① 人身傷害保険への加入 「過失相殺」(上記(3)④)は、「被害者に過失があったときは、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる」とする民法上の制度です。過失割合(過失相殺率)は、事故当事者の区分(四輪車、二輪車、歩行者など)、事故発生場所(交差点か否かなど)、事故態様(正面衝突、接触、追突など)によって大きく異なります。例えば、四輪車同士の交通事故で被害者の過失が原則としてゼロになるのは、被害者が急ブレーキをかけたわけでもないのに追突された場合や、被害者が青信号で交差点に進入した時に赤信号で進入してきた車と衝突した場合、センターラインをオーバーしてきた車と被害者の車が正面衝突した場合などに限られます。上記のような類型以外の交通事故であれば、被害者にもある程度の過失があるのが通常で、被害者に対する損害賠償額も、被害者の過失の分だけ減額(=過失相殺)されることになります。被害者側の過失分が「過失相殺」されてしまうという問題は、交通事故が発生した後に対処することができません。自分の過失の分について補償を受けるためには、事前に、自分の任意自動車保険に人身傷害保険を付けて備えるしかありません。(人身傷害保険に関する説明は、別コラム「自動車保険のお勧めの特約(3) ~ 人身傷害保険」をご覧ください。)② 無保険車傷害特約等への加入 加害者の無保険・無資力(上記(3)⑤)という問題は、「無い袖は振れない」という諺がそのまま当てはまる状況です。相手方が100%悪い交通事故で、あなたに大きな損害が発生してしまっている場合であっても、相手方が無保険で、損害賠償できるだけのお金も持っていなければ、支払ってもらえないということです。加害者の無保険・無資力という問題も事後的に対処することができないので、事前に、自分の任意自動車保険に人身傷害保険又は無保険車傷害特約を付けて備えるしかありません。(無保険車傷害特約に関する説明は、別コラム「自動車保険のお勧めの特約(4) ~ 無保険車傷害特約」をご参照ください。)(6) 保険金の支払額を提示された時の注意点 人身傷害保険等の適用がある場合は、自分や同乗者の治療等が終了した後、保険会社は、保険金の最終支払額を提示してきます。このときは(特に後遺障害事案の場合は)、保険会社から提示された保険金の額が適切かどうか確認するため、弁護士の法律相談を受けることをお勧めします。(上記(4)の確認と同趣旨ですが、適切かどうかを確認する対象は、加害者側の任意保険会社からの損害賠償金の提示額ではなく、自分の任意保険会社からの人身傷害保険金又は無保険車傷害保険金の提示額になります。)詳細は、別コラム「自動車保険のお勧めの特約(3) ~ 人身傷害保険」の3.(6)の説明をご覧ください。2022年8月30日