「法教育」という単語は、皆さんにとって、聞き慣れないものだと思います。法教育は、元々は、アメリカの「法に関連する教育法」(Law-Related Education Act of 1978)において定義された"Law-Related Education" (法に関連する教育)の訳語であると言われています。1. 日本における法教育の推進 日本では、2000年頃からの規制改革に伴う規制緩和(「事前規制」型社会から「事後監視・監督」型社会への移行)、司法制度改革に伴う裁判員制度の導入、検察審査会制度改革などが背景となって、法教育の推進が謳われるようになりました。小学校、中学校及び高等学校の学習指導要領を見ると、各教科において「法に関する教育」に係る内容が盛り込まれています。例えば、小学校6年生の社会科や中学校の社会科の公民分野において、裁判員制度について触れることが求められています。しかし、学校の授業で裁判員制度を取り扱い、その知識を教えるだけで、十分な法教育を行ったと言えるわけではありません。2. 法教育とは アメリカの上記「法に関連する教育法」において、"Law-Related Education" (法に関連する教育)は、"education to equip non-lawyers with knowledge and skills pertaining to the law, the legal process, and the legal system, and the fundamental principles and values on which these are based" (法律の非専門家に、法、法的手続、司法制度及びこれらの基礎となっている基本的原理や価値観に関連する知識や技能を習得させるための教育)であると定義されています。他にも、様々な考え方・定義の仕方がありますが(例えば、法務省HP、日弁連HP、帝国書院HP)、私は、法教育とは、「子供たちや一般の方々に、個人の尊重、自由と権利の保障、法の下の平等、法による統治権力の拘束、司法権の独立と尊重、適正手続の保障といった民主主義社会の基礎・根底にある考え方・価値観を理解してもらい、法的なものの見方や考え方、合意形成や紛争解決のための技術・技能を身に付けてもらうための教育」であると考えています。民主主義社会においては、意見や考え方の異なる個人同士が、お互いを個人として尊重し合いながら、それぞれ主体的に考え、公正に判断して行動し、共により良い社会を築き上げていく必要があります。個人同士が異なる意見や考え方を持ち、さまざまな問題に対して異なる理解・解釈をすることを前提としつつ、法・ルールに基づいて(ときには弁護士に相談したり、司法制度を活用したりして)、個々の問題について利害の調整をして、合意の形成を図り、実際に発生した紛争・トラブルの解決を目指すのです。3. 沖縄弁護士会による取り組み 私が所属している沖縄弁護士会法教育委員会では、2012年以降、地道に法教育の活動を続けてきました。例えば、住宅地にある人気カラオケボックス店に起因する騒音問題、青少年の深夜徘徊問題や安全対策などについて、子供たちに、近隣住民、カラオケ店店長、客及びPTA会長の立場に立って話合いを行ってもらい、利害の調整、ルール作り、紛争解決を体験してもらう題材などで授業を行ってきました。今は、新型コロナウイルス感染症の影響により、学校を訪問して授業を行うことが難しい状況にあります。一日も早くコロナ禍が収束し、学校で対面型の出張授業ができる日が来ることを願っています。2022年9月5日