1. 債務整理の前提 債務(借金等)が増えて返済が難しくなった場合には、債務整理を検討する必要があります。個人が債務整理する場合には、まず、「債務の支払さえなければ、生活ができる」と言える状態にする必要があります。(別コラム「債務(借金等)の問題で困ったときに」を参照してください。)収入と支出のバランスが取れ、収入の範囲内で生活できるようになったら、債務の整理に着手します。2. 債務整理の方法 個人が債務(借金等)を整理する方法は、基本的に、(1)相続放棄、(2)消滅時効の援用、(3)破産、(4)個人再生、(5)任意整理、(6)民事調停・特定調停の6つです。(1) 相続放棄 家族(親、祖父母、子、きょうだい、おじおばなど)が死亡した場合に、相続人として、亡くなった方(被相続人)の債務の支払を求められることがあります。被相続人の資産よりも債務が多いときは、家庭裁判所で相続放棄の申述という手続を行うことを検討してください。相続人が被相続人の債務を支払う必要がなくなります。(詳細は、別コラム「相続放棄 ~ 債務を相続しないために(令和3年改正民法対応)」を参照してください。)(2) 消滅時効の援用 一定の要件を満たす古い債務は、消滅時効を援用することで、債務を消滅させることができます。消滅させることのできる債務の典型例は、最後に借りたり返したりをしたのが5年以上前の消費者金融業者等からの債務で、その後、その業者等に対して一切連絡をしていないし、裁判所の手続も行われていないという場合です。弁護士に依頼するなどして、その業者(又は債権譲渡等を受けた業者)に対して消滅時効援用通知書を送付します。(3) 破産 収入から支出を除いた、実際に債務の返済に充てられる額(「可処分所得」といいます。)よりも毎月の返済額の方が多いため、返済ができないという場合には、破産を選択するのが最善ということが多いです。破産は、債務を支払えなくなった場合に、一定の財産(原則99万円までの財産、家財道具等)を手元に残し、それ以外の財産をお金に換えて債権者に支払った上で、支払いきれなかった債務の支払義務の免除(「免責」といいます。)を受けることによって、破綻した債務者の生活を立て直すことを目的とした制度です。(「破産」という言葉のイメージは良くないのですが、デメリットは多くありません。別コラム「個人が破産するときのデメリットって本当?」を参照してください。)破産は、地方裁判所に対して、破産手続開始・免責許可申立てをして行います。破産は、破産申立てや破産管財の経験をある程度有している弁護士に依頼すると、比較的安価かつ円滑に手続を終えられる可能性が高くなるでしょう。なお、破産の手続は、全国に50箇所ある地方裁判所ごとに細かな点で運用が異なっていますので、お住まいの地域の弁護士に依頼するのが合理的です。(例えば、私は、基本的に那覇地方裁判所の運用しか把握していませんので、沖縄県外の裁判所への破産申立ては原則として取り扱っていません。)なお、中小企業が破産申立て等をする際には、保証人となっている経営者個人も同時に破産申立てをすることが多いです。しかし、もし、経営者個人のほとんどの債務が保証債務(と住宅ローン)という場合であれば、「経営者保証に関するガイドライン」((一社)全国銀行協会HP)に基づいて経営者(と会社)の債務整理を行えるかを検討することになります。経営者個人にとっては、破産手続と異なり信用情報の登録がされず、また、破産手続よりも自宅を残しやすい等のメリットがあります。(4) 個人再生 可処分所得よりも毎月の返済額の方が多い場合で、住宅ローンの支払を続けて自宅を残したいというときや、債務の原因のほとんどがギャンブルや浪費であるときは、個人再生申立てを検討することになります。個人再生は、今後得る収入によって、原則として3年の間に債務を分割して弁済する計画を立てて認可を受け、その計画通りに弁済をした場合に残りの債務を免除してもらうことによって、破綻した債務者の生活を立て直すための制度です。個人再生は、地方裁判所に対して、個人再生手続開始申立てをして行います。個人再生も、お住まいの地域の、ある程度の経験を有している弁護士に依頼するのが良いでしょう。(5) 任意整理 毎月の返済額よりも可処分所得の方が多い場合には、任意整理という選択肢もあります。裁判所の手続を使わずに債権者と交渉して債務の総額を減額し、毎月の返済額を引き下げて、3~5年程度かけて分割弁済するというのが任意整理の基本的な方法です。もっとも、任意整理が最も合理的な手段となり得るのは、基本的には、以下の3つの場合ぐらいのように思います。(弁護士や司法書士に費用を支払ってまで、任意整理を行うことが合理的と言える場合は多くないと思います。)支出を見直せば、給与等の所得から問題なく分割返済できる場合(そもそも「債務が増えて返済が難しくなった場合」とまでは言えないものの、交渉により若干の減額を目指す場合など)分割弁済の総額が、破産をするための費用(弁護士費用、裁判所に支払う実費等)と同程度以下となる場合(債権者との交渉により返済総額を大きく減額できた場合など。もっとも、近時は、大幅減額に応じる債権者は少ないです。)自宅などの資産があり、資産の評価額が債務の総額を上回っている場合ただし、相続や退職などで、近々まとまったお金が手に入って資産の評価額が債務の総額を上回る(=上記3.に該当する)具体的予定があるという場合であれば、交渉によって債務を減額させた上で一括弁済を行うのは合理的な方法と言えます。これに対し、親族等の援助を受けて一括弁済をするのは、基本的にお勧めしません。また、債務の一部を任意整理するのも、例外的な場合を除き、お勧めできません。例えば、5社から借入れをしている場合に3社についてのみ任意整理するというのが一部の任意整理の典型例ですが、残りの2社の金利が極端に安いときにしか意味がなく、多くの場合は、後に事態が悪化します。債務の問題は、収入と支出を全体的に考え、費用対効果を踏まえつつ、解決手段を選択すべきです。最近、「国が認めた借金救済制度」、「全額免除」、「借金減額無料診断」、「借金減額シミュレーター」などの表現を用いる法律事務所や司法書士事務所のインターネット広告をよく見掛けます。2024年2月18日夜7時のNHK全国ニュースでも取り上げられていましたが、このような広告を出している法律事務所や司法書士事務所は、適切な解決手段を選択するのではなく、一律任意整理に誘導し、弁護士や司法書士の報酬を含めた支払総額が大きくなる可能性が高いため、注意が必要です。(参考URL:NHKホームページの記事「誇大ネット広告で不適切な債務整理に サポート団体立ち上げへ」)(6) 民事調停・特定調停 毎月の返済額よりも可処分所得の方が多い場合、簡易裁判所に調停を申し立てるという方法もあります。しかし、上記(5)の任意整理と同じ理由で、調停申立てを選択することが合理的である場合は多くないように思います。なお、新型コロナウイルスの影響で失業や収入・売上げが減少し、これにより債務の返済が困難になった個人や個人事業主は、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の「新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」を利用して特定調停を申し立てることで、債務の減免を受けられる可能性があります((一財)東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関HP)。しかし、この特則は、2020年11月以降に負担した債務に適用されないなど、使い勝手が良いと言える状態にはありません。2022年9月28日(2024年2月19日一部訂正)