1. 道路交通法改正の背景 2023年4月1日から改正道路交通法が施行され、自転車のヘルメット着用が義務化されます。この改正の背景にあるのは、自転車乗車中に頭部を保護することの重要性です。警察庁HP「頭部の保護が重要です ~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~」によれば、2018年から2022年までの間、自転車乗車中に交通事故に遭った死傷者のうち、ヘルメット着用者の致死率(死傷者数に占める死者数の割合)は0.27%でした。これに対し、ヘルメット非着用者の致死率は0.58%で、約2.1倍の差がありました。また、この期間中の自転車乗車中の交通事故死者2,005名のうち1,116名(約58%)の方は、頭部に致命傷を負っています。ヘルメットを着用して、頭部を保護することが、自転車乗車中の交通事故の被害を軽減するために重要なのです。2. 改正道路交通法の内容 改正道路交通法第63条の11第1項及び第2項は、全ての自転車の運転者に対し、ヘルメットを着用するように努める義務を課し、また、同乗者(※1)にヘルメットを着用させるよう努める義務を課します。これらの義務は努力義務と言われるもので、違反しても罰則は科されません。警察による取締りの対象になることもないでしょう。※1 自転車は、基本的に1人乗り用の軽車両ですが、都道府県条例によって最大3人乗りまで認められる場合があります。例えば、沖縄県では、16歳以上の運転者が、6歳未満の幼児1人を幼児用座席に乗車させたりすることなどができます(道路交通法第57条2項、沖縄県道路交通法施行細則第10条1号ア)。改正道路交通法第63条の10第2項は、親が幼児を乗せて自転車に2人・3人乗りする場合などにおいて、運転者(親など)に対し、同乗者(幼児など)にヘルメットを着用させる努力義務を課すものです。3. ヘルメット非着用のリスク 努力義務化後も罰則が科されないからと言って、ヘルメットを着用せずに自転車に乗ることはお勧めできません。ヘルメット非着用の方が運転・同乗する自転車が交通事故に遭った場合、上記1.のとおり頭部に外傷を負って、死亡する可能性が高まりますし、死亡に至らない場合でも、重大な後遺症障害が残るような怪我をする可能性が高まります。また、努力義務化後は、自転車事故に関する民事訴訟において、加害者側が「自転車に乗っていた被害者のヘルメット非着用は、被害者の過失分として損害賠償額から減額される割合(過失相殺率)を修正する要素である」と主張してくることが考えられます。(私自身は、努力義務化後もしばらくの間は、例外的な事案を除けば、自転車運転者・同乗者のヘルメット非着用は、過失相殺率に影響しないと予想しています。しかし、実際にどうなるかは、ヘルメット非着用の自転車事故事案の裁判例が積み重なってみないと分かりません。また、将来、ヘルメット着用が当たり前になれば、被害者のヘルメット非着用は、過失相殺率を修正する要素になってくると思います。)4. ヘルメットの選び方 ヘルメットは、色も形も、様々なものが売られています。おしゃれな見た目のヘルメットもあります。安全のためにヘルメットを着用するわけですから、安全基準を満たしていることを表示するマーク(※2)が付いた、サイズの合ったヘルメットを選び、正しく着用するようにしてください。事故時に脱げてしまわないように、ヘルメットはまっすぐに深くかぶり、あごひもを適切に締めるようにしましょう。※2 製品の安全性に関するマークは複数あります。SGマーク(一般財団法人製品安全協会の安全基準に基づく認証を受けた製品に表示されるマーク)とCEマーク(EUの安全性等の基準に適合しているとの評価を受けた製品に表示されるマーク)が有名です。5. レンタサイクル・シェアサイクル事業者への影響 自転車のレンタル・シェア事業を行っている事業者は、改正道路交通法への対応を検討する必要があります。ヘルメットの貸出しを行う場合は、ヘルメットを購入する必要がある上、盗難防止対策や衛生面での対策も行う必要があり、コストが掛かります。しかしながら、ヘルメット着用の努力義務化後に、ヘルメットを持っていない人に自転車を貸し、その人が交通事故に遭って頭部に外傷を負って死亡したり、重大な後遺障害が残ったりした場合に、事業者が責任を問われる可能性がないとは言い切れません。また、ヘルメットを貸し出せるようにしないまま、ヘルメットを持っていない人に自転車を貸し続けると、利用者の安全を軽視していると捉えられかねないように思います。2023年3月22日(2023年5月10日一部訂正)