1. 働き方改革関連法の施行 労働基準法第37条1項は、使用者が労働時間を「延長して労働させた時間が1か月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と定めています。この規定は、大企業(資本金の額が5000万円超又は常時使用する労働者が50名超の小売業など)には2010年4月1日から適用されていました。中小企業や個人事業主には適用が猶予されていたのですが、働き方改革関連法の改正項目が順次施行され、2023年4月1日からは、上記労働基準法第37条1項の規定が全ての使用者に適用されています。2. 法定時間外労働及び休日労働に対する規制 ~ 前提知識 (1) 法定時間外労働 労働基準法第32条1項及び2項は、使用者は労働者に、休憩時間を除いて、1週間40時間、1日8時間を超えて、労働させてはならないと定めています。使用者が労働者に、法律上労働させることができる1週間40時間、1日8時間のことを「法定労働時間」(※1、※2)といいます。使用者が労働者に、法定労働時間を超えた労働(「法定時間外労働」又は「時間外労働」といいます。※3)をさせることは、原則として、違法です。(2) 休日労働 労働基準法第35条1項は、使用者は労働者に、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないと定めています。この休日のことを「法定休日」(※4)といいます。使用者が労働者に、法定休日に労働(「休日労働」といいます。)をさせることは、原則として、違法です。※1 一定の事業(①物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業、②映画の映写、演劇その他興行の事業、③病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業、④旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業)で、使用者が使用する労働者が常時10人未満の場合は、週の法定労働時間を44時間とする特例が存在します(労働基準法施行規則第25条の2第1項、労働基準法別表第一)。※2 就業規則等において、1日の労働時間を8時間よりも短く定めていることがあります。この就業規則等において定められた労働時間のことを「所定労働時間」といいます。※3 「残業」と言われることもあります。しかし、早出(所定労働時間開始前の労働)が賃金支払の対象にならないかのような語感ですし、法定休日や所定休日における労働との関係なども不明確になります。「残業」、「残業時間」、「残業代」といった単語を使った説明には、誤りあることが多いように思います(割増賃金の計算方法を解説している有名な会社のホームページにも、説明に誤りがあるものがあります。)。※4 就業規則等において、法定休日以外にも休日を定めていることが多いです。この就業規則等において定められた休日のことを「所定休日」といいます。例えば、完全週休2日制で、土曜日と日曜日が休日となっている会社の場合、土曜日を所定休日、日曜日を法定休日としている会社が多いと思われます。(3) 36協定 事業場における労働者の過半数で組織する労働組合、これがない場合は労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出た場合、使用者は、この労使協定で定めた内容に従って、適法に、労働者に時間外労働や休日労働をさせることができます。この労使協定は、労働基準法第36条に基づくものであるため、「36(さぶろく)協定」と呼ばれます。36協定においては、①労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲、②対象期間(最長1年)、③対象期間における1日、1か月及び1年当たり時間外労働時間の上限などを決める必要があります。36協定の締結と届出のない時間外労働及び休日労働は、全て違法です。36協定の締結と届出がないのに、あなたが経営する会社が、労働者に時間外労働や休日労働をさせている場合は、違法ですので、直ちに是正してください。36協定の締結と届出がないのに、あなたが、勤務している会社において、時間外労働や休日労働をさせられている場合は、①会社に対して違法を是正するように促すこと、②労働基準監督署に相談すること、③退職することなどを検討してください。私が被害者ご遺族の代理人を務めた労災死亡事件において、被害者は東京証券取引所第一部(当時)上場企業の孫会社で就労していたのですが、使用者は、36協定の締結がないまま、被害者を長時間労働させ、過労自殺に追い込みました。この会社は、被害者に対し、一応、時間外割増賃金(いわゆる残業代)を支払っていたのですが、私が精査したところ、多額の未払がありました。36協定を締結していなかった事実は、この会社が、労働者のことを軽視していたということを端的に示していたように思います。36協定なしのまま時間外労働や休日労働をさせる会社にそのまま勤務し続けることは、たとえ時間外割増賃金の支払を受けていたとしても、全くお勧めできません。(4) 時間外労働時間の上限規制 時間外労働時間の上限(「限度時間」といいます。)は、原則、月45時間、年360時間です。ただし、事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要があり、労使協定で定める場合には、限度時間を超えて労働をさせることができます。この場合、①時間外労働時間及び休日労働時間は月100時間未満、②連続する2か月、3か月、4か月、5か月及び6か月のそれぞれについて、時間外労働時間及び休日労働時間は平均月80時間以内、③時間外労働時間は年720時間以内、④月45時間を超えて時間外労働をさせることができる月数は年6か月以内である必要があります。なお、自動車運転の業務、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造事業等において、上限規制の適用は2024年4月1日まで猶予等されており、また、新技術・新商品等の研究開発業務には上限規制は適用されません。3. 改正のポイント (1) 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ 2023年3月31日まで、大企業以外の使用者は、労働者の1か月の法定時間外労働が60時間を超えても、通常の労働時間の賃金の25%以上の率で計算した割増賃金を支払えば良いとされていました。しかしながら、2023年4月1日以降、全ての使用者(中小企業や個人事業主を含みます。)は、月60時間以下の法定時間外労働に対して通常の労働時間の賃金の25%以上の率で計算した割増賃金を、月60時間を超える法定時間外労働に対して、原則として、50%以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。%3Cstyle%20type%3D%22text%2Fcss%22%3E%0A.tg%20%20%7Bborder-collapse%3Acollapse%3Bborder-spacing%3A0%3Bmargin%3A0px%20auto%3B%7D%0A.tg%20td%7Bborder-color%3Ablack%3Bborder-style%3Asolid%3Bborder-width%3A1px%3Bfont-family%3AArial%2C%20sans-serif%3Bfont-size%3A14px%3B%0A%20%20overflow%3Ahidden%3Bpadding%3A10px%205px%3Bword-break%3Anormal%3B%7D%0A.tg%20th%7Bborder-color%3Ablack%3Bborder-style%3Asolid%3Bborder-width%3A1px%3Bfont-family%3AArial%2C%20sans-serif%3Bfont-size%3A14px%3B%0A%20%20font-weight%3Anormal%3Boverflow%3Ahidden%3Bpadding%3A10px%205px%3Bword-break%3Anormal%3B%7D%0A.tg%20.tg-7geq%7Bbackground-color%3A%23ffffc7%3Btext-align%3Acenter%3Bvertical-align%3Atop%7D%0A.tg%20.tg-m9r4%7Bbackground-color%3A%23ffffc7%3Btext-align%3Aleft%3Bvertical-align%3Atop%7D%0A.tg%20.tg-i81m%7Bbackground-color%3A%23ffffff%3Btext-align%3Acenter%3Bvertical-align%3Atop%7D%0A%3C%2Fstyle%3E%0A%3Ctable%20class%3D%22tg%22%3E%0A%3Ctbody%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E1%E3%81%8B%E6%9C%88%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%A4%96%E5%8A%B4%E5%83%8D%3Cbr%3E(1%E6%97%A58%E6%99%82%E9%96%93%E5%8F%88%E3%81%AF1%E9%80%B140%E6%99%82%E9%96%93%E3%82%92%3Cbr%3E%E8%B6%85%E3%81%88%E3%82%8B%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%99%82%E9%96%93)%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-7geq%22%3E%E5%89%B2%E5%A2%97%E8%B3%83%E9%87%91%E7%8E%87%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-i81m%22%3E60%E6%99%82%E9%96%93%E4%BB%A5%E4%B8%8B%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-i81m%22%3E25%25%E4%BB%A5%E4%B8%8A%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-i81m%22%3E60%E6%99%82%E9%96%93%E8%B6%85%E3%80%80%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-i81m%22%3E50%25%E4%BB%A5%E4%B8%8A%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%3C%2Ftbody%3E%0A%3C%2Ftable%3E(2) 代替休暇 使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合、これがない場合は労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結すれば、1か月60時間を超える時間外労働に対する引上げ分の割増賃金の支払に代えて代替休暇を取得することができる制度を設けることができます。代替休暇の時間数は、月60時間を超えた時間外労働の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合の月60時間超の時間外労働の割増賃金の率と、月60時間以下の時間外労働の割増賃金の率との差に相当する率(換算率)を乗じて算出します。例えば、月60時間以下の時間外労働の割増賃金の率が25%、月60時間超の時間外労働の割増賃金の率が50%の会社において、労働者が月92時間の時間外労働をした場合における代替休暇の時間数は、(92時間-60時間)×(50%-25%)=8時間となります。労働者が希望してこの代替休暇を取得した場合、使用者は、月92時間の時間外労働に対して通常の労働時間の賃金の25%以上の率で計算した割増賃金を支払えば良いことになります(労働基準法第37条3項)。これに対し、労働者が代替休暇を取得しなかった場合、使用者は、原則どおり、月92時間の時間外労働のうち60時間分について通常の労働時間の賃金の25%以上の率で計算した割増賃金を支払い、60時間を超えた32時間分について通常の労働時間の賃金の50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。代替休暇の単位は1日又は半日で、有給休暇と組み合わせて休暇を取得できる旨を定めることができます。代替休暇は、特に長い時間外労働を行った労働者に休息の機会を与えることを目的としているため、月60時間超の時間外労働を行った月の末日の翌日から2か月間以内に与える必要があります。3. 休日労働及び深夜労働の割増賃金との関係 月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げ後は、時間外労働が月60時間を超えた後にした深夜の時間外労働の割増賃金も引き上げられます。これに対し、休日労働の割増賃金は、時間外労働が月60時間以下でも、月60時間超でも同じです。4. まとめ ~ 支払われるべき賃金 上記2.(2)の代替休暇の取得がない場合において、通常の賃金(月給など)に加えて支払われるべき賃金の1時間当たりの最低額は、次の表のとおりとなります。100%は、基礎賃金(月給などから家族手当、通勤手当などを控除したもの)の1時間分の額を意味しています。(※5)ただし、就業規則等において法定割増率よりも高い割増率を定めている場合、使用者は労働者に対し、次の表よりも高い割増率にて賃金を支払う必要があります。%3Cstyle%20type%3D%22text%2Fcss%22%3E%0A.tg%20%20%7Bborder-collapse%3Acollapse%3Bborder-spacing%3A0%3Bmargin%3A0px%20auto%3B%7D%0A.tg%20td%7Bborder-color%3Ablack%3Bborder-style%3Asolid%3Bborder-width%3A1px%3Bfont-family%3AArial%2C%20sans-serif%3Bfont-size%3A14px%3B%0A%20%20overflow%3Ahidden%3Bpadding%3A10px%205px%3Bword-break%3Anormal%3B%7D%0A.tg%20th%7Bborder-color%3Ablack%3Bborder-style%3Asolid%3Bborder-width%3A1px%3Bfont-family%3AArial%2C%20sans-serif%3Bfont-size%3A14px%3B%0A%20%20font-weight%3Anormal%3Boverflow%3Ahidden%3Bpadding%3A10px%205px%3Bword-break%3Anormal%3B%7D%0A.tg%20.tg-baqh%7Btext-align%3Acenter%3Bvertical-align%3Atop%7D%0A.tg%20.tg-m9r4%7Bbackground-color%3A%23ffffc7%3Btext-align%3Aleft%3Bvertical-align%3Atop%7D%0A%3C%2Fstyle%3E%0A%3Ctable%20class%3D%22tg%22%3E%0A%3Cthead%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Cth%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%3C%2Fth%3E%0A%20%20%20%20%3Cth%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E6%B7%B1%E5%A4%9C%E4%BB%A5%E5%A4%96%3C%2Fth%3E%0A%20%20%20%20%3Cth%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E6%B7%B1%E5%A4%9C(%E2%80%BB6)%3C%2Fth%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%3C%2Fthead%3E%0A%3Ctbody%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E2%91%A0%20%E6%89%80%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%86%85%E5%8A%B4%E5%83%8D%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E%EF%BC%8D%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E%2025%EF%BC%85%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E2%91%A1%20%E6%89%80%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%A4%96%E3%81%8B%E3%81%A4%3Cbr%3E%E6%B3%95%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%86%85%E5%8A%B4%E5%83%8D(%E2%80%BB7)%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E100%25%3Cbr%3E(%E5%89%B2%E5%A2%97%E3%81%AA%E3%81%97)%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E125%EF%BC%85%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E2%91%A2%20%E6%B3%95%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%A4%96%E5%8A%B4%E5%83%8D%3Cbr%3E%E3%80%80%EF%BD%9E%E6%9C%8860%E6%99%82%E9%96%93%E4%BB%A5%E4%B8%8B%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E125%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E150%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E2%91%A3%20%E6%B3%95%E5%AE%9A%E6%99%82%E9%96%93%E5%A4%96%E5%8A%B4%E5%83%8D%3Cbr%3E%E3%80%80%EF%BD%9E%E6%9C%8860%E6%99%82%E9%96%93%E8%B6%85%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E150%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E175%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%20%20%3Ctr%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-m9r4%22%3E%E2%91%A4%20%E6%B3%95%E5%AE%9A%E4%BC%91%E6%97%A5%E5%8A%B4%E5%83%8D%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E135%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%20%20%3Ctd%20class%3D%22tg-baqh%22%3E160%25%3C%2Ftd%3E%0A%20%20%3C%2Ftr%3E%0A%3C%2Ftbody%3E%0A%3C%2Ftable%3E※5 割増賃金が未払となる主な理由は、以下のとおりです。(1) 時間外労働の全部又は一部を認めないなどして、割増賃金支払の対象外とするもの(2) 1時間当たりの基礎賃金の額の計算ミス(3) 労働時間が表中のどの区分に該当するかの判断ミス(4) 100%の部分の計上漏れ(例えば、深夜以外における月60時間以下の法定時間外労働1時間に対し、125%ではなく、25%しか支払わないなど)※6 原則として、午後10時から午前5時までの時間の労働が深夜割増賃金の対象となる深夜労働です(労働基準法第37条4項)。※7 例えば、所定労働時間が7時間の場合であれば、7時間超8時間以内の労働は、所定時間外かつ法定時間内の労働となります。「法内残業」ともいわれます。2023年4月18日