1. 所有者不明土地とは 土地の所有者が亡くなって相続人が土地を取得しても、相続登記がされない限り、不動産登記簿から土地の所有者を特定することはできません。遺産分割がされないまま相続が繰り返されて土地の共有者が増えると、共有者の特定、共有者の所在の特定、遺産分割や土地の利用・管理・処分のための合意形成が困難になります。(沖縄では、相続登記がされないまま土地が長年放置等される中で、相続人の一部がアメリカ、南米などに移住していて、遺産分割の際にとても苦労するという事例が多くあります。)また、土地の所有者が転居した場合、住所等の変更登記をしない限り、不動産登記簿から所有者の所在を特定することはできません。このように、不動産登記簿を見ても所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が所在不明で連絡が付かない土地のことを「所有者不明土地」といいます。所有者不明土地は、利活用されないまま放置されて、周辺の土地に悪影響を及ぼすことがあります。利用・管理することが難しいため、公共事業や災害復興の妨げにもなっています。所有者不明土地は、その存在自体が社会問題になっているといえます。このような所有者不明土地が発生することを予防するため、相続土地国庫帰属制度の創設及び不動産登記制度の改正が行われました。2. 相続土地国庫帰属制度の創設 (1) 概要 相続土地国庫帰属法 (相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律) が2023年4月27日に施行され、相続土地国庫帰属制度が創設されます。相続土地国庫帰属制度は、土地を手放すための制度です。相続等により土地の所有権を取得した者は、法務大臣の承認を受けて、その土地を国庫に帰属させることができるようになります。(2) 申請者 相続土地国庫帰属の承認申請をすることができるのは、相続 (特定財産承継遺言を含みます。) 又は遺贈 (相続人に対する遺贈に限ります。) によって土地を取得した所有者や、土地の共有持分を取得した共有者です。共有に属する土地は、共有者全員が共同して承認申請をする必要があることから、相続等によって土地の共有持分を取得した共有者と共同して承認申請をするのであれば、相続等以外の原因 (売買など) によって共有持分を取得した共有者 (法人を含みます。) も承認申請をすることができます。(3) 対象となる土地 国庫に帰属させることができる土地は、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」以外の土地です。例えば、次のような土地は国庫帰属の対象になりません。建物がある土地通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両、樹木等がある土地土壌汚染や埋設物がある土地通路など、他人による使用が予定されている土地担保権、賃借権等の権利が設定されている土地所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地危険な崖がある土地相続土地国庫帰属法の施行は2023年4月27日ですが、施行前に相続等によって取得した土地も、相続土地国庫帰属制度の対象になります。数十年前に相続した土地であっても、要件さえ満たせば、国庫帰属が可能です。(4) 申請後の手続 申請後、法務大臣による要件審査を経て帰属の承認を受けることができた場合、申請者は、10年分の土地管理費用相当額の負担金を納付することで、当該土地を国庫に帰属させることができます。負担金の最低額は、1筆20万円です。負担金の額は、当該土地の①種目、② (宅地、田又は畑の場合) 市街化区域等の指定の有無、並びに③ (森林並びに市街化区域等に指定されている宅地、田及び畑の場合) 面積によって決まります。詳細は、法務省HP「相続土地国庫帰属制度の負担金」をご確認ください。3. 不動産登記制度の改正 不動産登記制度の改正は、相続登記申請や住所変更登記申請を義務化しつつ、登記手続の簡素化・合理化等を行うものです。主な改正内容は、次のとおりです。(1) 相続登記の申請義務化 相続 (特定財産承継遺言を含みます。) や遺贈 (相続人に対する遺贈に限ります。) により、不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記 (所有権移転登記) の申請をすることが義務付けられます。また、法定相続分での相続登記 (又は下記(2)の相続人申告登記) 後に遺産分割が成立した場合には、遺産分割の日から3年以内に、その内容を踏まえた所有権移転登記の申請をすることも義務付けられます。(改正不動産登記法第76条の2、2024年4月1日施行)正当な理由がないのに申請を怠ったときは、罰則 (10万円以下の過料) の対象になります。なお、施行日前に、相続が発生して上記の要件を充足していた場合にも、登記申請義務が課されます。この場合、2027年3月31日までに登記申請をする必要があります。(2) 相続人申告登記 相続人申告登記という手続が新設され、不動産の所有権の登記名義人が死亡して相続が開始したとき、相続人は、登記官に対し、登記名義人の法定相続人であるとの申出ができるようになります。(改正不動産登記法第76条の3、2024年4月1日施行)登記官は、この申出をした者の氏名、住所等を登記します。この申出は、相続人全員で行う必要はなく、単独で行うことができ、上記(1)の期間内にこの申出をした者は、上記(1)の相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。(相続人の一部のみがこの申出をした場合、申出をしていない残りの相続人は、別途、相続人申告登記をするか、上記(1)の相続登記をする必要があります。)相続人申告登記は、添付書類が簡略化され、かつ、非課税になります。(3) 登録免許税の免税 従前と同様の相続登記に関しては、既に、次の登記の登録免許税の免税措置が講じられています。(2025年3月31日までの時限措置です。)① 個人が相続 (相続人に対する遺贈を含みます。) により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転登記を受ける前に死亡したとき、当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするための登記に登録免許税は課されません。(租税特別措置法第84条の2の3第1項)② 不動産の価額が100万円以下の土地の相続による所有権移転登記又は所有権保存登記にも登録免許税は課されません。(租税特別措置法第84条の2の3第2項)(4) 住所等の変更登記の申請義務化 不動産の所有権の登記名義人は、氏名、名称又は住所を変更した場合、変更があった日から2年以内に変更登記の申請をすることが義務付けられます。(改正不動産登記法第76条の5、2026年4月までに施行)正当な理由がないのに申請を怠ったときは、罰則 (5万円以下の過料) の対象になります。なお、施行日前に住所等を変更していた場合にも、登記申請義務が課されます。この場合は、施行日から2年以内に登記申請をする必要があります。(5) 住所等変更の職権登記 登記官が、住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット)、商業・法人登記システムなどから取得した情報に基づき、職権で氏名、名称又は住所の変更登記をする制度が導入されます。(改正不動産登記法第76条の6、2026年4月までに施行)所有権の登記名義人が自然人の場合、法務局は、住所等の変更に関する情報を取得したら、登記名義人に対し、変更登記をすることについて確認を行います。登記官は、登記名義人から了解を得られた場合に限り、職権で、住所等の変更登記を行います。この職権による住所等の変更登記がなされた場合、上記(4)の申請義務は履行したものとみなされます。(6) DV被害者等保護のための登記事項証明書記載事項の特例 DV防止法、ストーカー規制法、児童虐待防止法上の被害者等は、登記官が登記事項証明書に住所に代わる事項を記載するように申し出ることができるようになります。(改正不動産登記法第119条第6項、2024年4月1日施行)DV被害者等も上記(1)の相続登記や上記(4)の住所等の変更登記の申請義務を負うことになりますが、登記官が登記事項証明書に住所に代わる事項を記載することで、DV被害者等は、現住所を秘匿できるようになります。(7) 所有不動産記録証明制度 特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行する所有不動産記録証明制度が新設されます。(改正不動産登記法第119条の2、2026年4月までに施行)亡くなった方 (被相続人) や自らが所有している不動産を容易に把握したり、証明したりできるようになります。(弁護士からすると、相続、遺言等のご相談を受けるにあたって必要になる不動産に関する情報を簡単に、かつ、漏れなく把握できるため、とても便利な制度だと言えます。)(8) 登記名義人死亡情報の符合表示 登記官が、住基ネットなどから取得した死亡情報に基づき、登記に死亡の事実を符号によって表示する制度が新設されます。(改正不動産登記法第76条の4、2026年4月までに施行)不動産登記を見るだけで所有権の登記名義人が死亡した事実を把握することができるようになります。(9) 外国居住者の国内連絡先の登記 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、国内連絡先となる者 (法人も可) の氏名、住所等を登記することになります。(改正不動産登記法第73条の2第1項第2号、2024年4月1日施行)(10) 形骸化した登記の抹消手続の簡略化 形骸化した一部の登記 (①契約の日から10年経過している買戻しの特約に関する登記、②存続期間が満了している地上権等の権利に関する登記、③解散した法人の担保権に関する登記) は、既に、比較的簡単に抹消することができるようになっています。(不動産登記法第69条の2、第70条2項、第70条の2)2023年4月24日