1. 相続財産清算人選任申立て お亡くなりになった方(「被相続人」といいます。)に相続人がいる場合は、原則として、相続人が被相続人の財産(「相続財産」といいます。)を全て承継します。(相続人の範囲については別コラム「相続人の範囲と法定相続分」を参照してください。)しかし、相続人全員が死亡、相続放棄等して相続人がいない場合、相続人は存在しません。この場合、利害関係人又は検察官は、家庭裁判所に対して相続財産の清算人(「相続財産清算人」といいます。)の選任を申し立てることができます。(令和3年改正民法第952条1項。改正前の名称は「管理人」でしたが、相続財産の清算を目的としないものも同様に呼ばれていたことから、相続財産の清算を目的とするものの名称を「清算人」に変更することになりました。)なお、行方不明又は生死不明であっても、戸籍上相続人がいる場合は、相続財産清算人の選任申立てをすることができません(東京高等裁判所昭和50年1月30日決定・判例時報778号64頁)。不在者財産管理人選任申立て(民法第25条1項)又は失踪宣告申立て(民法第30条)を先行させる必要があります。2. 申立てができる利害関係人 相続財産清算人の選任申立てをすることができる「利害関係人」は、相続財産の帰属につき、法律上の利益を有する者です。実務上よく見られるのは、以下の(1)~(4)の利害関係人による相続財産清算人の選任申立てです。(1) 特別縁故者 被相続人の世話をしていた人など、被相続人と特別の縁故があった者(「特別縁故者」といいます。)は、相続財産から財産分与を受けることができる場合があるため、相続財産清算人の選任申立てをすることができます。特別縁故者については、別コラムにてご説明します。(2) 相続債権者 相続債権者(例えば、生前の被相続人にお金を貸していた者)は、相続財産から債権を回収する必要があるため、相続財産清算人の選任申立てをすることができます。(3) 相続財産に対して権利を行使しようとする者 相続財産に対して権利を行使しようとする者は、相続財産清算人の選任申立てをすることができます。例えば、以下のような者がこれに当たります。相続財産に属する建物が他人の土地上にある場合において、建物収去土地明渡しを求めたい土地の所有者・賃貸人時効取得を原因として、相続財産に属する土地の所有権移転登記手続を求めたい土地占有者遺産の相続分を有する被相続人が亡くなった場合において、当該遺産の分割を求めたい共同相続人(4) 成年後見人であった者 成年被後見人であった被相続人が亡くなった後、成年後見人が戸籍等を調査しても相続人が見付からない場合があります。この場合、成年後見人であった者は、相続財産を引き継ぐ相続人がいないことから、相続財産清算人の選任申立てをすることになります。(成年後見人であった者による相続財産清算人の選任申立ては、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が成年後見人である事例がほとんどだと思われます。)成年後見人については、別コラム「成年後見制度」を参照してください。(5) その他 上記のほか、受遺者(遺言によって財産の遺贈を受ける者)、相続債務者、事務管理者(例えば、葬儀費用を立て替えた者や相続財産を事実上管理している者)、失踪宣告が確定した不在者の財産管理人、遺言執行者、相続財産上の担保権者(例えば、土地の抵当権者)、国、地方公共団体なども、相続財産清算人の選任申立てをすることができる利害関係人に当たります。3. 選任後の手続 (1) 相続人捜索の公告 相続人のあることが明らかでない場合、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求があると、相続財産清算人を選任した上で、相続財産清算人を選任した旨及び相続人があるのであれば一定の期間(最短6か月)内に、相続人としての権利を主張すべき旨を公告します。(民法第952条1項及び令和3年改正民法第952条2項)実例はほとんどないと思われますが、相続人の存在が明らかになり、当該相続人が相続を承認した時、相続財産清算人の代理権は消滅します。(2) 相続債権者等に対する請求申出の公告及び催告 上記(1)の公告の後、相続財産清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間(最短2か月かつ上記(1)の公告期間の満了日以前)内に、その請求の申出をすべき旨を公告します。(令和3年改正民法民法第957条1項)また、相続財産清算人は、知れている相続債権者及び受遺者に対し、個別に、その請求の申出をするように催告します。(民法第957条2項、第927条3項)(3) 相続債権者等に対する弁済 上記(2)の期間の満了後、相続財産清算人は、相続財産をもって、次の順序で、それぞれの債権額の割合に応じて弁済します。(民法第957条2項、第929条、第931条、第935条)期間内に申出をした相続債権者及び知れている相続債権者期間内に申出をした受遺者及び知れている受遺者期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者で相続財産清算人に知れなかった者(4) 特別縁故者への相続財産の分与 上記(1)の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができなくなります。(民法第958条)そのため、上記(3)の弁済が終わり、かつ、上記(1)の期間が満了した後に、相続財産が残存する場合があります。この場合、特別縁故者は、上記(1)の期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に対し、清算後に残存している相続財産の全部又は一部の分与を求めることができます。(民法第958条の2)特別縁故者に対する財産分与申立てについては、別コラムにてご説明します。(5) 残余財産の国庫帰属 上記(4)の手続後に残った相続財産は、国庫に帰属します。(民法第959条)実務上、相続財産清算人は、相続財産を換価して、現金を国庫に納付します。2023年5月12日