1. 民法における意思表示 (1) 意思表示の方法 「意思表示」は、民法における重要な概念の一つです。例えば、民法522条1項には、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示・・・に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」と定められています。契約は、「当事者双方の意思表示が合致することで成立する」などと表現されます(例:法務省HPの高校生を対象とした法教育教材「私法と契約 概要」)。意思表示の方法は、法令に特別の定めがある場合を除き、制限がありません。(※1)口頭、電話、ビデオ通話、書面(契約書など)、FAX(発注書と請書など)、インターネット上のWEBサイト、電子メール、LINEなど、当事者が意思表示の内容を相互に確認できる限り、方法は何でも良いということです。(※2)当事者が同じ場所にいる必要もありません。※1 特別の定めがある場合として、例えば、保証契約については、書面又はその内容を記録した電磁的記録でしなければ、効力を生じないと定められています。(民法446条2項及び3項)遺言は、遺言者の死後の法律関係を定めるための最終の意思表示であるところ、特別の場合を除き、書面(自筆証書、公正証書又は秘密証書)によってしなければならないと定められています。(民法967条)※2 ただし、当事者間で法律上の紛争が生じた場合には、契約成立の事実、契約内容などを証明する必要が生じる場合があります。このような場合に備えるため、重要な契約などは、契約書のように、分かりやすい方法で証拠を残しておいた方が良いと言えます。(2) 意思表示の効力発生時期 民法97条1項には、「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定められ、同条2項には、「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」と定められています。違う場所にいる当事者間(隔地者間)の場合、原則として、意思表示は、その通知が到達しなければその効力を生じず、効力の発生時期は、その通知が到達した時になります。(3) 書面による意思表示 契約関係に異常が生じた場合において、法的効力を発生させるために意思表示をするとき(例えば、賃借人が家賃の支払を滞納した場合において、賃貸人が家賃の支払を催告したり、賃貸借契約の解除をしたりするとき)などには、意思表示の通知が到達した事実を争われることがないようにするため、相手方に対して、書面を郵送して意思表示をするのが通常だと思われます。弁護士が依頼者の代理人として意思表示をする場合も、意思表示をする通知書(催告書、解除通知書など)を郵送しますが、通知書が実際に届いたか、いつ届いたかをしっかりと確認しています。通知書が相手方に到達したか否かによって、その後の対応が異なってきますし、適時に到達しない場合には法律的な結論が変わることすらあるからです。法律的な効果を発生させるに当たって期限がある場合には、その期限から逆算して、いつまでに意思表示の通知書を発送しなければいけないかも考えています。相手方に意思表示の通知書を確実に到達させるために、ちょっとした工夫をすることもあります。(※3)※3 私は、相手方が、実際には自宅にいるのに、郵便局の不在届を利用して長期間郵便物を受け取らないようにしていた事案を経験したことがあります(日本郵便株式会社HP「Q. 長期間不在とする場合の郵便物等の配達について教えてください」参照)。このような場合は、上記(2)の民法97条2項の規定の適用により、意思表示の通知は到達したものとみなすことができると思われますが、正当な理由の存否が問題になり得るため、工夫をして到達させてしまった方が良いと言えます。上記事案でも、幾つかの工夫を組み合わせることにより、実際に意思表示の通知を到達させ、かつ、相手方が通知が到達した事実を争ってくることはありませんでした。2. 最近の郵便事情 (1) 普通郵便の配達が遅いこと 最近、沖縄市内の同一の宛先への葉書(普通郵便)を2通出しました。2通とも、宛先の最寄りの郵便局の管内で差し出しており、日本郵便株式会社HP「お届け日数を調べる」にて調べたお届け日数の検索結果は「翌々日」でした。「翌々日」の具体的な目安は、同社HP「検索結果が翌々日の場合」に記載されています。1通目の葉書は、月曜日夕方、宛先の地域の集配を行う郵便局の目の前のポストに投函し、翌々日である水曜日(2日後)に届きました。2通目の葉書は、水曜日午後、その郵便局の窓口に差し出しました。お届け予定日は金曜日ですが、実際に届いたのは翌週月曜日(5日後)でした。土曜日と日曜日に配達が行われていない中で、金曜日に配達されなかったことから、次の配達日である月曜日に配達されたのだと思われます。以上から、宛先の地域の集配を行う郵便局の窓口で差し出しても、普通郵便であれば、配達が差出から5日後になる場合があるということが分かりました。最近、郵便物の配達が遅くなっているということは認識していましたが、それでも配達が5日後になったのには少し驚きました。(2) 弁護士実務への影響 上記1.(3)のとおり、弁護士は、書面がいつ到達するかを意識しながら事件処理に当たっています。郵便事情が悪くなっていることが明確に分かりましたので、弁護士が事件処理のために書面を郵送する際には、多少料金は高くなるものの、原則として、速達又はレターパックプラス(若しくはレターパックライト)を使う必要があると言って良さそうです。2023年7月31日