道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)の特定小型原動機付自転車に関する規定の施行に伴い、2023年7月1日から、一定の要件を満たす電動キックボード等に、新たな交通ルールが適用されています。1. 改正法施行前の区分 改正道路交通法等の施行前、電動キックボードの多くは、道路交通法上の「原動機付自転車」、道路運送車両法上の「第一種原動機付自転車」に該当していました。(※1)このような電動キックボードで公道を通行するためには、原動機付自転車の免許が必要でした。法定速度は時速30kmで、歩道の通行は禁止され、また、ヘルメットの着用義務が課されていました。(※2)※1 改正法施行前後を問わず、電動式モーターの定格出力が0.60キロワット超である場合や三輪以上である場合は、法律上の扱いが異なっています。細かな違いを説明すると分かりにくくなるため、本コラムでは、主に、定格出力0.60キロワット以下の二輪の電動キックボードについて解説をしています。※2 産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」を用いた公道での実証実験の段階では、特例が適用されて、電動キックボードは「小型特殊自動車」として扱われました。ヘルメットの着用は任意で、最高速度は時速15kmでした。2. 改正法施行後の区分 (1) 特定小型原動機付自転車 改正道路交通法等の施行後、以下の要件を満たす電動キックボードは、16歳以上であれば、道路交通法及び道路運送車両法上の「特定小型原動機付自転車」(特定原付)として、免許不要で公道を通行できるようになりました。(※3)車体の大きさが、長さ190cm以下、幅60cm以下であること原動機として、定格出力0.60キロワット以下の電動機を用いること時速20kmを超える速度を出すことができないこと走行中に最高速度の設定を変更できないことクラッチ操作を要しない機構(AT機構)がとられていること前照灯、尾灯、制動灯、後部反射器、警音器、方向指示器、速度制御装置、最高速度表示灯を備える等して、道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号)に適合していること(※4)自動車損害賠償責任保険(共済)の契約をしていること市町村から交付を受けたナンバープレート(標識)を取り付けていること(※5)※3 特定小型原動機付自転車の要件を満たさない電動キックボードで公道を通行する場合は、改正法施行後も、該当する車両区分に対する交通規制が適用されます。改正法施行前から営業している電動キックボードのレンタル事業者は、原動機付自転車の免許が必要となる電動キックボードを貸している場合が多いと思われます。※4 性能等確認済みシール等による表示が、保安基準適合の目安となります。※5 市町村役場に軽自動車税申告書兼標識交付申請書を提出すると、特定小型原動機付自転車の車体幅に収まる専用のナンバープレート(10cm×10cmの正方形)の交付を受けることができます。特定小型原動機付自転車には、年額2,000円の軽自動車税(種別割)が課されます。(2) 特例特定小型原動機付自転車 以下の要件を満たす特定小型原動機付自転車は、「特例特定小型原動機付自転車」として歩道(自転車が通行可能な歩道に限られます。)等を通行できるようになりました。歩道等を通行する間、最高速度表示灯を点滅させていること最高速度表示灯を点滅させている場合においては、車体の構造上、時速6kmを超える速度を出すことができないこと側車を付けていないことブレーキが走行中容易に操作できる位置にあること鋭利な突出部がないこと他の車両を牽引していないこと(遠隔操作により通行させることができるものを除く。)3. 保安基準適合性 (1) 確認済みの車種 国土交通省HP「特定小型原動機付自転車について」にて本コラム執筆日において公表されている資料「保安基準適合性等が確認された特定小型原動機付自転車の型式」(2023年8月2日更新)によれば、同日時点で、以下の8社13車種の保安基準適合性等の確認が済んでいます。括弧内には、製作者等の名称、車両本体価格(本コラム執筆日時点で各社HPに掲載されている消費税込み、送料別の価格)及び特徴を記載しています。① YADEA KS6PRO(長谷川工業株式会社、¥198,000)② ストリーモ S01JT(株式会社ストリーモ、¥300,000、三輪)③~⑧ LUUP 計6車種(株式会社LUUP、同社のシェアリングサービス向け)⑨ Falcon ZERO9 Lite(SWALLOW合同会社、¥139,800)⑩ LAIL グレードL(正解株式会社、同社HPに価格の記載なし)⑪ Kintone model one S(株式会社KINTONE、¥99,800)⑫ カーメイト e-FREE01(株式会社カーメイト、未発売で同社HPに掲載なし、自転車型)⑬ E-KON City(株式会社E-KON、¥139,700)この中で、特例特定小型原動機付自転車として歩道等を通行できるのは、①、②、⑪及び⑫の4車種です。他にも、多くの会社が特定小型原動機付自転車の予約販売を開始していたり、販売の準備をしたりしています。(2) 性能等確認済みシールの確認 電動キックボードの販売やレンタルをする会社のHPを見ていただければ分かるとおり、ある電動キックボード型の車両が、特定小型原動機付自転車なのか、第一種原動機付自転車なのか、それ以外の適法なものなのか、違法なものなのかを、外観から判別することはできません。(※6)特定小型原動機付自転車の購入・レンタル利用等をする際には、性能等確認済みシールが表示されていることを必ず確認してください。※6 原動機(電動機)を用いる自転車型の車両の区分は更に複雑です。特定小型原動機付自転車の⑫は、ペダルとチェーンはないですが自転車型です。特定小型原動機付自転車として、ペダルとチェーンを備えた外観を持つ商品の予約販売を行っている会社も存在します。ペダルとチェーンを備えた、原動機(電動機)を用いる自転車型の車両には、他にも、電動アシスト自転車(人の力を補うため原動機を用いる自転車)、第一種原動機付自転車、第二種原動機付自転車や、自転車と第一種原動機付自転車の間で車両区分を変化させることができる車両があります(警察庁HP「「車両区分を変化させることができるモビリティ」について(通達)」)。4. 主な交通ルール 特定小型原動機付自転車の交通ルールは、自転車の交通ルールに比較的近く、その主な内容は次のとおりです。(1) 年齢制限 16歳未満の者が特定小型原動機付自転車を運転することは禁止されています。年齢制限の規定に違反して運転することとなるおそれがある者に対して特定小型原動機付自転車を提供(貸与、譲渡、売却等)することも禁止されています。(道路交通法第64条の2第1項及び第2項)(2) 飲酒運転の禁止 飲酒運転(酒気帯び運転)は禁止されています。(道路交通法第65条第1項)飲酒運転をすることとなるおそれがある者に対して特定小型原動機付自転車を提供することや、酒類を提供し又は飲酒をすすめることも禁止されています。(道路交通法第65条第2項及び第3項)(3) 2人乗り等の禁止 1人を超える人数で乗ること(2人乗り等)は禁止されています。(道路交通法第57条第1項、道路交通法施行令第23条第1号)(4) 運転者の遵守事項 車両が停止しているときを除き、スマートフォン等を保持して通話のために使用したり、画面に表示された画像を注視したりすることは禁止されています。(道路交通法第71条第5号の5)(5) 通行場所 ① 車道通行の原則車道と歩道又は路側帯の区別がある道路においては、車道を通行しなければなりません。自転車道、自転車専用道路、自転車歩行者専用道路は通行可能です。道路(車道と歩道又は路側帯の区別があるところでは、車道)では、左側を通行しなければならず、特に、車両通行帯の設けられていない道路を通行する場合は、原則として、左側端に寄って通行しなければなりません。(道路交通法第17条第1項、第3項及び第4項、同法18条1項)② 例外的に路側帯又は歩道を通行できる場合特例特定小型原動機付自転車(※7)であれば、道路の左側部分に設けられた路側帯(歩行者用路側帯を除きます。)を通行することができます。また、道路標識等により特例特定小型原動機付自転車が歩道を通行できることとされている場合には、当該歩道の中央から車道寄りの部分(普通自転車が通行すべき部分として指定された部分があるときは、当該部分)を通行することができます。(※8)ただし、歩行者の通行を妨げてはいけません。(道路交通法第17条の2第1項及び第2項、同法第17条の3)※7 上記3.(1)の①、②、⑪及び⑫の4車種(2023年8月2日時点)が歩道モードで走行する等して上記2.(1)及び2.(2)の要件を全て満たしている場合に限られます。※8 特例特定小型原動機付自転車は、全ての歩道を通行できるわけではありません。通行できるのは、左下に示す「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識、右下に示す「特定原付・普通自転車歩道通行可」の道路標示などにより、特例特定小型原動機付自転車が通行ができるとされている歩道に限られます。道路標識等のない歩道や「歩行者等専用」の道路標識が設置されている歩道は通行できません。(6) 二段階右折(小回り右折の禁止) 特定小型原動機付自転車は、右折の際は、全ての交差点で(※9)、交差点の手前の側端から30メートルの手前の地点に達したときに右折の合図をし、あらかじめできる限り道路の左側端に寄り、交差点の左の側端に沿って徐行直進した上で、交差点の向こう側において進行方向を右に転換した後に(信号機等により交通整理の行われている交差点では前方の信号が青になってから)直進(いわゆる「二段階右折」)をしなければなりません。(道路交通法第34条第3項、同法第53条第1項、第3項及び第4項、道路交通法施行令第21条第1項)※9 特定小型原動機付自転車は、下に示す「一般原動機付自転車の右折方法(小回り)」(二段階右折禁止)の道路標識がある交差点でも、二段階右折をする必要があります。この道路標識には「原付」としか記載されていないことから、特定小型原動機付自転車の二段階右折も禁止しているように見えるため、注意が必要です。(7) ヘルメットの着用(努力義務) 特定小型原動機付自転車の運転者には、乗車用ヘルメットを着用する努力義務があります。(道路交通法第71条の4第3項)安全基準を満たしていることを表示するマークが付いたヘルメットを正しく着用しましょう。(※10)※10 製品の安全性に関するマークには、SGマーク(一般財団法人製品安全協会の安全基準に基づく認証を受けた製品に表示されるマーク)、CEマーク(EUの安全性等の基準に適合しているとの評価を受けた製品に表示されるマーク)などがあります。(8) 交通ルール、道路標識等の詳細 特定小型原動機付自転車に関する交通ルール及び道路標識・道路標示の詳細は、次のホームページを確認してください。① 交通ルール警察庁HP「特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する交通ルール等について」警視庁HP「特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)に関する交通ルール等について」② 道路標識・道路標示警察庁HP「特定小型原動機付自転車に関連する主な道路標識・道路標示」5. 利用方法に関する私見 (1) 期待 電動キックボードは、市街地等において短距離を移動するのに適した乗り物です。観光地である沖縄にとっては、暑い中、観光客の方が比較的短距離を快適に移動できるようになる新しい移動手段を提供できるという点で、大いに期待したい乗り物です。(2) 不安 ① 違法な運転電動キックボード型の特定小型原動機付自転車は、運転自体は難しくないことから、16歳未満の者による運転、飲酒運転、2人乗り、スマートフォン等を保持した状態での運転、時速6kmを超える速度での歩道走行などの道路交通法違反行為をする誘惑は小さくないと思われます。改正道路交通法等の施行から日は浅いですが、既に、2023年7月6日に大阪府で、7月7日に東京都で、それぞれ飲酒運転の電動キックボードが関係する交通事故が発生したとの報道がなされています。7月16日には、東京都で、電動キックボードが路上駐車をしていた車両を避けるために歩道に乗り上げたところ、5歳の子供に接触して軽傷を負わせる交通事故が発生し、時速6kmを超える速度で歩道走行をする道路交通法違反行為をしていた疑いがあるとの報道もなされています。他にも、ニュース映像で、①小回り右折をするために、交通量の多いスクランブル交差点の真ん中に立ち止まっている電動キックボードや、②車道と歩道の区別がある道路において、最高速度表示灯を点灯させた状態で歩道を走る電動キックボードを見たことがあります。(※11)※11 ①は、改正法施行前の映像のようですが、多くの自動車が行き交う交差点の真ん中で、人が立ち往生しているようにしか見えませんでした。夜間であったため周囲からの視認性が非常に悪く、自動車が、電動キックボードの存在に気付かないまま衝突してしまう危険性が高いと感じました。②では、電動キックボードが、交差点を斜めに横断して広めの歩道に進入した後、人が歩く速度よりも大幅に速い速度を維持したまま、歩道を蛇行し、歩行者の間をすり抜けながら走行していました。道路交通法違反行為が複数ある上、歩行者と衝突してしまう危険性が高いと感じました。② 安全性電動アシスト自転車が時速24km超で人の力を補う力が加わらなくなるのに対し(道路交通法第2条第1項第11号の2、道路交通法施行規則第1条の3第1号ハ)、特定小型原動機付自転車の最高速度が時速20kmに抑えられたことから、特定小型原動機付自転車の安全性は、電動アシスト自転車よりも低いということが立法の前提となっています。(※12)かと言って、低速で走行しさえすれば安全性が高いということでもないようです。(※13)電動キックボード型の特定小型原動機付自転車は、重心の位置が高くなる立ち乗りで、かつ、ほとんどが二輪でタイヤ径も小さいことから、段差、悪路、濡れた路面、急ブレーキ・急ハンドルなどに弱く、比較的転倒しやすいと言えます。(※14)ハンドル、手首などに荷物を提げた状態で運転をする場合は、バランスを取るのが特に難しそうなので、買い物などの荷物の運搬を伴う移動には不向きです。電動キックボード型の特定小型原動機付自転車の尾灯及び後部反射器は、足元程度の低い位置に取り付けられているため、夜間における後方からの視認性は著しく悪そうです。交通事故発生時にヘルメットを着用していなかった場合、運転者を守るものが何もないため、死亡したり、重大な傷害を負ったりする可能性が高くなります。(※15)したがって、特定小型原動機付自転車の安全性は必ずしも高いとは言えないように思います。※12 最高速度に関して更に言えば、2021年4月から実施されていた実証実験では時速15kmだったのに(上記※2)、改正道路交通法では時速20kmに引き上げられたことにも疑問が残ります。実証実験の利用者アンケートで、「時速15kmだと遅すぎて危ない」、「車道を走る場合、クルマとの速度差が大きいと怖い」という声があったことが背景にあるようですが、自動車との速度差を考えれば、時速15kmで危ないのであれば、時速20kmでも危ないはずです。※13 SWALLOW合同会社HP「ZERO9 LITEが歩道走行機能を搭載しない理由について」によれば、「時速6キロというのは成人男性の歩行速度とほぼ同じ速度です。・・・電動キックボードはバランスを取る必要がある乗り物のため、この速度で走行するのは簡単ではありません。特に、不整地のある歩道などでは、安全に走行することが難しくなることがあります。」とのことです。※14 一般的な50ccのスクーター(第一種原動機付自転車)のタイヤ径(リム径)は、10インチです。幼児向けの自転車のタイヤ径(外径)は、12~18インチです。 二輪電動キックボード型の特定小型原動機付自転車のタイヤ径は、これらよりも小さい8~10インチです。(各社HPにタイヤ径の記載があった上記3.(1)①、⑨、⑩、⑪及び⑬の5車種のタイヤ径です。いずれもタイヤの外径だと思われます。)※15 一般社団法人日本自動車連盟(JAF)が行った実験では、時速20kmの速度で縁石に衝突して転倒した場合におけるヘルメット非着用時の頭部への衝撃の大きさは、ヘルメット着用時の約6.3倍になり、頭部に重大な傷害を負ったり、死亡したりするリスクが高いとの結果でした。(他の実験結果も含め、詳細は、一般社団法人日本自動車連盟HP「ヘルメットなしでの運転は極めて危険!電動キックボードの衝突実験」をご覧ください。)(3) 安全な利用に向けて 以上からすれば、電動キックボード型の特定小型原動機付自転車は、主に、昼間に自動車や歩行者が多くない場所で、整備された道路を通行するために利用するのが良いでしょう。例えば、観光関連施設等において、施設の敷地内の環境を整備し、主に敷地内(建物と駐車場の往復など)の利用に限定して、ヘルメットとともに貸し出すという場合であれば、安全性は高そうです。観光客の移動手段が基本的に徒歩又はレンタル自転車に限られているような場所(沖縄県内の一部離島など)において、道路を整備した上で、昼間限定で、ヘルメットとともに貸し出すという場合も、安全性は高そうです。ヘルメットを着用して、三輪の電動キックボード(本コラム執筆日時点で上記3.(1)②の1車種のみ)を、主に、特例特定小型原動機付自転車として歩道等を通行する方法で利用する場合も比較的安全性は高いように思います。特定小型原動機付自転車に対する交通規制は、人がちょっとした違反行為をしてしまう誘惑に負けやすいということをやや軽視しているように感じます。海外では、違反行為や事故の多さから、電動キックボードに対する規制を強化した国もあります。日本でも、電動キックボードが関係する交通事故の発生件数や死傷者数の変化を注視していく必要があります。重大な交通事故の発生件数が多くなるようであれば、車両区分の見直し、歩道通行の禁止、免許制への変更、ヘルメットの着用義務化、最高速度の抑制などの規制強化を検討しなければいけないかもしれません。2023年8月16日