1. 規制対象拡大の背景 (1) 事業用自動車への既存の規制 事業用自動車の運転者による飲酒運転を根絶するため、事業用自動車(緑ナンバー)・事業用軽自動車(黒ナンバー)を使用する運送事業者には、2011年5月1日以降、点呼の際にアルコール検知器を使用して運転者の酒気帯びの有無を確認すること等が義務付けられていました。(2) 白ナンバーの貨物自動車の事故 2021年6月28日午後3時23分頃、千葉県八街(やちまた)市の市道で、下校中の小学生の列に貨物自動車(7トントラック)が突っ込む人身事故が発生しました。加害者は、当時、時速約56キロメートルで進行中、アルコールの影響による居眠り運転の状態でこの事故を起こし、同市立朝陽小学校に通う小学1年生から3年生の児童5人が被害に遭って、2人が死亡し、3人が負傷しました。(※1、※2)この事故で加害者が運転していたトラックが自家用貨物自動車(白ナンバー)で、アルコール検査が行われていなかったことから、アルコール検査義務の対象を拡大するため道路交通法施行規則が改正されることになりました。※1 加害者は、危険運転致死傷罪で懲役14年の刑に処されています(千葉地方裁判所令和4年3月25日判決)。※2 この事故の原因は、加害者の飲酒・居眠り運転だけではありません。当時、事故現場の道路には路側帯が設けられていませんでした。現在は、道路の小学生が歩いていた側とは反対側にガードレールが設置されています。2. 安全運転管理者によるアルコール検査 (1) 安全運転管理者の選任と届出 自動車の使用者(一定の運送事業者を除きます。)は、①乗車定員11人以上の自動車1台又は②その他の自動車5台(※3)以上の自動車の使用の本拠ごとに、安全運転管理者を選任し、選任した日から15日以内に公安委員会に届け出なければなりません(道路交通法第74条の3第1項及び5項並びに同法施行規則第9条の8第1項、※4)※3 自動二輪車(第二種原動機付自転車を含みます。)1台は、0.5台として計算します(道路交通法施行規則第9条の8第3項)。道路交通法上の自動車に当たらない第一種原動機付自転車(総排気量50cc以下、定格出力0.6kW以下)や自転車を含める必要はありません。※4 安全運転管理者制度の概要は、警察庁HP「安全運転管理者制度の概要」をご確認ください。沖縄県における安全運転管理者等の届出方法等については、沖縄県警察HP「安全運転管理者等の選任手続きについて」をご参照ください。(2) アルコール検知器等による確認 安全運転管理者は、2022年4月1日以降、使用者の業務に従事する運転者に対し、運転前後に、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認すること及びその確認の内容を記録し、1年間保存することが義務付けられていました。2023年12月1日から、安全運転管理者は、更にアルコール検知器を用いて運転前後の運転者の酒気帯びの有無を確認して記録し、1年間保存すること及び当該アルコール検知器を常時有効に保持することが義務付けられました。(道路交通法第74条の3第2項、改正道路交通法施行規則第9条の10第6号及び第7号)この目視等及びアルコール検知器による確認は、運転の直前・直後に毎回行う必要はなく、業務上の運転を含む一連の業務の開始前後に実施すれば良いとされています。(※5、※6)副安全運転管理者や安全運転管理者業務の補助者がこの確認を行うこともできます。(※7)※5 上記1.(2)の事故において、加害者は、事故発生の約30分前、高速道路のパーキングエリアにおいて、一時休憩のための停車中に飲酒をしています。そのため、この事故の前に改正道路交通法施行規則が施行され、運転開始前にアルコール検査が実施されていたとしても、事故の発生を防ぐことはできなかったとも考えられます。しかし、運転を伴う業務の終了後にも安全運転管理者等が運転者の酒気帯びの有無の確認を確実に行うことで、運転開始後の飲酒を抑止することが期待できます。※6 安全運転管理者は、使用者の業務に従事する運転者に対して自動車の安全な運転に必要な業務を行う必要があることから、例えば、従業員が出張先でレンタカーを借りて、一時的に業務に使用するために運転をするような場合にも、目視等及びアルコール検知器による確認を行う必要があります。このような場合、実務的には、安全運転管理者等がオンラインでカメラを通して運転前後の運転者の顔色等を目視し、声の調子を聞いた上で、当該運転者にアルコール検知器を使用してもらって、その測定結果が分かるように当該アルコール検知器をカメラに示してもらうという方法で確認を行うのが望ましいと考えます。※7 安全運転管理者の業務の詳細は、千葉県警察HP「安全運転管理者の業務拡充に関するQ&A」が分かりやすいです。上記※6の説明も、このQ&Aを参考にしています。3. 飲酒運転の根絶に向けて 今回の改正道路交通法施行規則の施行により、白ナンバーや黄色ナンバーであっても、5台以上の自動車や定員11人以上の自動車を使用する者は、アルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認の規制対象になっています。私がこのコラムを執筆するに当たって、5台以上の自動車を使用したり、送迎・移動用のマイクロバスを使用したりしている複数の事業者に尋ねたところ、この規制対象の拡大を知らなかった事業者がいらっしゃいました。飲酒運転による悲惨な交通事故の被害者を1人でも減らすため、事業者は、アルコール検知器を用いて、運転者の酒気帯びの有無をしっかりと確認するようにしてください。2023年12月28日